column15 対話相手の「防衛本能」を刺激しない話し方

 ここからは、話を聞いていくために必要な項目について解説していきます。ノウハウではなく考え方についての説明なので、少し抽象的に感じるかもしれません。しかし、考え方を踏まえないでノウハウだけ学んでしまうと、どうしても小手先だけの表面的な理解になってしまいますので、どうかしばらくお付き合いください。全部で6項目あります。

①基本的な配慮をする

②興味・関心・問題意識をもつ

③適切な質問をする

④積極的に傾聴する

⑤相手の立場になって親身に話を聞く

⑥相手が考えを深めるための題材を提供する

 

 いかがでしょうか。どれも当たり前のようなことばかりですね。でも、これらのことをしっかりやれば、前回お話しした「どうやって聞いていくか?」という「大きな穴」を埋めることができます。簡単なように見えますが、実はそれぞれに深い意味があります。ぜひ、日頃ご自身が対話している場面を思い浮かべながら読み進めてくださいね。

 

 上記6項目を、2項目ずつ3回に分けて説明していきます。今回は、①基本的な配慮をする ②興味・関心・問題意識をもつ という2点についてお話しします。

 

①基本的な配慮をする

  ここでお話ししたいのは、新入社員研修で言うような「身だしなみやエチケットに気を配りましょう」ということではありません。対話する時に配慮してほしいのは、以下の2点です。

●「防衛本能」を刺激しない  ⇒「ブレーキを解除する」イメージ

●「話したい欲求」を刺激する ⇒「アクセルを踏み込む」イメージ

  

相手が話そうとしないのは「防衛本能」が働いているから

  対話の時、相手が思うように話をしてくれないと、かなりつらいものです。それでは、なぜ相手は話してくれないのでしょうか?「忙しいから」「面倒くさいから」など、いろんな理由があると思いますが、最もやっかいなのが「防衛本能が働いているから」です。

 

 この防衛本能は、様々なかたちで現れます。たとえば、自分の内面的なことを打ち明けて、相手に馬鹿にされたり軽蔑されたりしたら、深く傷ついてしまいますよね。さらに、揚げ足を取られたり、弱みにつけ込まれたりする危険もあります。そのため、人はなかなか本当のことをさらけ出すようなことはしません。

 

 また、「うまく話せなくて、誤解されたらどうしよう」という不安を感じることがあります。これも防衛本能の一種です。特に日本人はこの傾向が強く、「誤解されるくらいなら、黙っていたほうがいい」と考える人がたくさんいます。余談ですが、これは「日本人はわかりにくい」と言われる原因の一つだと思います。

 

 あなたがセールスパーソンだとしたら、取引先の人は「この人に余計なことを話したら、それに乗じて何か売り込まれるんじゃないか?」という不安を感じているかもしれません。それから、あなただけに情報を流すと、上司に「なんであの会社だけ優遇するんだ?」という痛くない腹を探られる可能性もあります。また、今はネットによって簡単に情報が拡散されてしまうため、うっかり自社が抱えている課題を外部の人に話したら、どのような問題が起こるかわかりません。もちろん、あなたは誠実な方で、そのような行為をしようなどとは少しも考えていないと思います。それにもかかわらず、取引先の人は勝手に防衛本能を働かせてしまうわけです。

 

 このように、防衛本能は思いもよらないかたちでブレーキをかけています。だからこそ、対話の時にはなるべく相手を安心させて、防衛本能を刺激しないように配慮する必要があるわけです。言わば、「ブレーキを解除する」ようなイメージですね。

 

人は誰でも「話したい欲求」がある

 人の気持ちには「防衛本能=ブレーキ」がある反面、「話したい欲求=アクセル」があります。「話したい欲求」とは、「本当のことを知ってほしい。よくわかってもらいたい」「できればウソをつきたくない。正直に話したい」「自分だけが知っていることを、『実はね…』と打ち明けたい」などの気持ちです。いかがでしょうか?皆さんにも、こうした欲求があるのではないでしょうか。

 

 実は、「話したい欲求」は誰にでも存在します。どんなに無口な人でも、気難しい人でも、多かれ少なかれこの欲求をもっています。これを上手に刺激することができると、相手は喜んで話してくれるようになります。

 

 あるスポーツジャーナリストに伺った話ですが、プロのスポーツ選手は繊細で気難しい人が多い反面、「この人は自分のことをわかってくれる!」と感じてくれると、ものすごくおしゃべりになる人がたくさんいるそうです。プロスポーツというのは、やはり過酷な世界です。そこで活躍している人たちは、孤独と戦いながら試行錯誤を繰り返しています。そうした中で、自分のことを理解してくれる人に出会うと、「もっともっとわかってほしい!」という気持ちになるのでしょう。気難しくて近寄りがたく思われている選手と親しくなって、その「意外な一面」を引き出していくのは、まさにジャーナリストとしての醍醐味なのだそうです。

 

 余談ですが、よくプロスポーツ選手と女子アナウンサーが結婚する例がありますね。双方とも魅力的だし、取材で出会う機会が多いから当然と言えば当然ですが、私はもう一つ理由があると思っています。人には「自分のことをわかってくれる人を、好きになってしまう」という傾向があります。「取材を通して理解を深めていくことで、自然と好意が芽生える」という側面もあるだろうと考えています。

 

 それから、警察などで取り調べを行う際にも、この「話したい欲求」を刺激するようにしているそうです。ドラマのような、「お前がやったんだろう!吐け!」なんて取り調べ方をしたら、容疑者は萎縮や反発をして余計に話そうとしなくなります。というか、人権的に問題になってしまいます。そうではなく、容疑者のことをよく理解しようとして、寄り添うように話を聞いていく。そうすると、やはり「もっとわかってほしい!」という気持ちが芽生えてきて、ポツリポツリと自白を始めるのだそうです。

 

 繰り返しますが、人には「話したい欲求」があり、決して話すこと自体が嫌なわけではありません。むしろ、話したいのです。アクセルを踏み込むように、相手への理解を示し、「話したい欲求」を上手に刺激していく。これからは、遠慮することなく、「欲求を満たしてあげているのだ」というくらいの自信をもって話を聞いていきましょう。

 

②興味・関心・問題意識をもつ

  「興味・関心・問題意識をもつ」というのも、対象が2つあります。

●「相手そのもの」に対して、興味・関心・問題意識をもつ。

●「聞くという行為」に対して、興味・関心・問題意識をもつ。

今回も、当たり前のようなことですね。でも対話の時は、どうしても「自分の伝えたいことを、相手にわかってもらいたい」という気持ちが先に立ってしまうので、この2つに興味・関心・問題意識をもつのは意外と難しいものです。

 

思春期の子供が親と話す気をなくしてしまう理由

 まず、「相手そのものに対して、興味・関心・問題意識をもつ」についてご説明しましょう。人は、自分が興味・関心・問題意識をもっていることしか頭に入ってきません。たとえば、自分の腕時計の文字盤のデザインは、よく見ているのにあまり覚えていないものです。普段、時計を見る時は「時刻」を知りたいだけで「時計」に興味はありません。そのため、いつも見ているのに文字盤のデザインは頭に残らないわけです。

 

 対話する時も同じです。経験の浅いセールスパーソンは、顧客と接する時に「顧客の購買意欲(買うか・買わないか)」しか見ていないことがあります。このような状態では、顧客との対話は成り立ちません。また、上司・部下の関係でも同じことが言えます。「部下の業績」ばかり見ている上司と、「上司の機嫌」ばかり気にしている部下。両者がこのような関係だと、対話は成り立ちません。

 

 思春期の子供が親と会話していて、急に話す気をなくしてしまうことがあります。親が「もっと勉強してほしい」「もっと将来のことを考えてほしい」ということばかり考えていると、子供と話していてもそれに関する情報しか頭に入ってこなくなります。

 

 一方、子供のほうには「今の自分自身をわかってもらいたい」という思いがあります。自分そのものをわかってもらいたいと思って話しているのに、親は勉強や将来のことしか興味がない。話していて、そのギャップがわかると、子供は急に話す気をなくしてしまうのです。

 

 「自分の知りたいこと」しか興味・関心・問題意識をもたない。対話が成り立たない原因の多くがここにあります。対話する時には、「相手そのもの」に対して、きちんと興味・関心・問題意識をもつようにしましょう。

 

「自分の聞いている姿」を意識してみる

 もう一つ、「聞くという行為に対して、興味・関心・問題意識をもつ」ことも大切です。前回もお話ししたように、多くの人は「聞くこと」に対して問題意識をもっておらず、スキルも磨いていません。たとえば、「この人、話すのが上手だなあ」と思うことはあっても、「この人、聞くのが上手だなあ」と思うことは少ないものです。これでは、「聞くこと」に関するお手本が蓄積されていきません。何事もお手本が蓄積されないと上手になりませんので、このような状態を放置したままでは永遠に上達することはありません。

 

 たとえば、黒柳徹子さんは「徹子の部屋」というトーク番組を40年間続けています。明石家さんまさんは「さんまのまんま」という番組を30年以上続けています。お二人とも大変に「聞くこと」がお上手なのですが、「では、この二人のどこがどのように上手なのでしょうか?」と質問されると、多くの人は答えられません。これは、お二人の聞いている姿を注意して見たことがないからです。

 

 黒柳徹子さん、明石家さんまさん以外にも、阿川佐和子さん、笑福亭鶴瓶さん、くりいむしちゅーの上田晋也さんなど、現在のテレビ番組は聞き上手な人がたくさん活躍しています。機会があったら、これらの方々が聞いている姿を注意して見てみてください。きっと、「ああ、たしかに上手だなあ」と感じる場面がたくさんあると思います。

 

 さらに、対話している時の「自分の聞いている姿」を意識することも大切です。一度、「自分の聞いている姿」をビデオに撮って見てみてください。「あれ?こんな態度で話を聞いていたのか!」と驚かれると思います。中には、「こんな聞き方をされたら、相手は話す気にならないよなあ…」という感想をもつ人もいます。対話の時は、「自分の話している姿」と同じように「自分の聞いている姿」も意識するようにしましょう。

 

 今回も、最後までお付き合いいただいて有難う御座いました。次回は、 ③適切な質問をする ④積極的に傾聴する という2項目についてご説明いたします。