「聞き出す力」というと、「ああ傾聴ね」とか「質問力のことですよね」と安易に解釈する人がいます。たしかに、傾聴や質問はとても大切ですが、聞き出すのに必要なのはこの二つだけではありません。目的意識、共感力、ロジカルシンキング、また記憶の仕組みに関する知識なども必要です。「聞き出す力」は総合的なものです。今回は、その全体像がわかるようなお話をしていきたいと思います。
話を聞き出すには、傾聴と質問のバランスが重要
まず、傾聴と質問についてですが、この両者はそれぞれ大切なだけでなく、両者のバランスが重要です。そのことについてご説明します。
こちらの質問をきっかけにして、相手が話し始めたらしっかりと傾聴してあげる。そうすると、相手は話しやすくなるのでどんどん話をしてくれます。もし、傾聴せずに質問だけ投げかけていたらどんな感じになるでしょうか。何となく、尋問的になってしまいますよね。逆に、質問せずに相手の話をひたすら傾聴していたらどうでしょうか。相手は自分のしゃべりたいことを気持ちよくしゃべるかもしれませんが、こちらは聞きたいことが聞けません。話を聞き出すというより、「話を聞かされている」という状態になってしまいます。
そこで、「傾聴する⇔傾聴しない」「質問する⇔質問しない」に分けて4象限を作り、今の話を整理してみましょう。
ではここで、「自分は、話をよく聞こうと意識した時に、この4象限のどこに当てはまるかな」と考えてみてください。このコラムをお読みの方であれば、左下の「質問も傾聴もしない」という人は少ないと思います。しかし、右上の「質問と傾聴のバランスがとれている」と自信を持って言える人も意外と少ないのではないでしょうか。ほとんどの人は、左上の「質問するが、傾聴しない」、右下の「傾聴するが、質問しない」に当てはまるのではないかと思います。
何事もそうですが、自分で抱いているイメージと他者からの客観的な評価はずいぶん違うものです。当社が行っている研修では、「自分が聞いている姿を他の人に見てもらってフィードバックを受ける」という演習を行います。この演習をすると、「自分で抱いていたイメージと異なり、実際は尋問的な聞き方をしていた」と気付く人がとても多く見受けられます。自分では質問と傾聴のバランスがとれているつもりでも、客観的に見るとまだまだ傾聴が足りないということなのでしょう。
ちなみに、「バランスをとる」というのは「ある一点」を指すのではなく、「偏ったら戻る」ことを言います。決して「偏らない」ということではありません。たとえば、会話の最初のうちはどうしても質問が多くなりがちです。そのうちに相手が熱くなってきて、聞きたいことをどんどん話してくれるようになったら、あまり質問を差し挟まずに傾聴したほうがスムーズに聞き出せるものです。「バランスをとる」というと、「どこがバランスですか?」と聞く人が多いのですが、決して「ある一点」を指すのではないことをご理解ください。
詳しい話を聞き出す
詳しい話を聞き出すためには、まず「この分野の話が聞きたい」という目的意識が必要になります。この目的意識を持つというのは、当たり前に思えますが、意外と忘れられています。詳しい話を聞き出すというのは、目的の範囲にたくさん線を引いて塗りつぶすようなイメージです。質問と傾聴を駆使して、しっかりと濃く塗りつぶすことができれば、その分だけ詳しい話が聞けたことになります。
詳しい話を聞くのは、聞きたい分野(範囲)を明確に
して、たくさん線を引いて塗りつぶしていく行為。
範囲を明確にする⇒目的意識が必要
効率的に線を引く⇒ロジカルシンキングと記憶に関す
る知識が必要
線を引いて塗りつぶしていくためには、効率的に線を引いていくことが大切です。思いつくままにバラバラと質問するのではなく、順番をよく考えて質問を投げかける。そのためには、ロジカルな考え方がどうしても必要です。また、相手に詳しいことを思い出してもらうように、記憶の仕組についても理解しておく必要があります。とはいえ、日常業務で話を聞き出す程度であれば、それほど難しいレベルは必要ありません。5W2H(5W1H+How much)を明確にしたり、時系列を辿るように聞く(時系列を逆行するように聞くと記憶は甦りにくい)など、ごく簡単な配慮をするだけで大きな違いが生まれます。
深い話を聞き出す
詳しい話を聞いていくと、自分と相手の間に共感が生まれてきます。そうすると、会話は単なる情報の伝達ではなく、情緒的な部分も伝わるようになります。さらに、相手の話に応じて的確に感想を述べたり、これまでに起こった具体的な事例を挙げたり、他者(社)と上手に比較して相手の位置付けを明確にしてあげたりすると、相手は「この人わかってくれる!」と感じてくれるようになります。
こうなってくると、普通では打ち明けないような「実は・・・」という話がどんどん出てくるようになります。つまり、話が深まってくるわけです。こうした深い話が聞き出せるようになると、営業活動でもマネジメントでも大きなメリットが得られるようになります。そのためには、共感力に加えて、先ほどのような感想・事例・比較などを的確に繰り出すための業務知識や経験が欠かせません。
また、深い話をしていると、話している側も考えが整理されてくるものです。そうした思索がより進むように、考えるための題材や道筋を提供してあげると、さらに深い話が聞き出せるようになります。
ここまでお話ししてきたことを図にすると、以下のようになります。
今回は、全体像を説明しようとするあまり、どうしても抽象的な話が多くなってしまいました。申し訳ありません。でも、全体像がわかると自分がどこに位置しているのかイメージしやすくなりますし、何を努力すればよいのか明確になります。聞き上手になりたいとお考えの方は、上の全体図をよく見て「自分はどこに位置しているかな?」と一度考えてみてください。
全体像がわかると、「聞き出す力」は総合力であり、決して無理強いするような行為ではないことがよく理解できると思います。そもそも、人は誰でも「話したい欲求」を持っています。聞き出すには、そうした欲求を上手にくすぐってあげることが大切です。次回は、そんなお話をいたします。今回のような抽象的な話ではなく、具体的な場面がイメージできるようなお話をしたいと思います。