現在のテレビは、バラエティやトーク番組が中心です。そこに出演しているタレントさんたちが話を聞いている様子を見ていると、とても参考になります。そこで今回は、実際にお名前を挙げながら、具体的に何が優れているのか解説していこうと思います。
笑福亭鶴瓶さん
現在、私が最も注目しているのは、NHK「家族に乾杯」に出演している笑福亭鶴瓶さんです。この番組は、鶴瓶さんとゲストがそれぞれ街に繰り出して、ぶっつけ本番で一般の人たちから家族に関する話題を聞き出していくという、かなりムチャな番組です(笑)。
この番組で、鶴瓶さんは聞き上手としての力量を如何なく発揮しています。ゲストの人は、それほど深い話が聞き出せないので、旅番組のように風景や名物のレポートをすることが多くなります。一方の鶴瓶さんは、老夫婦のお宅に上がり込んで、まず「なれそめ」を聞き出し、次に奥さんから「嫁いだ頃の苦労話」を聞き出し、さらにご主人から「奥さんへの感謝の気持ち」を聞き出します。すると、奥さんが「こんなこと、結婚して初めて言われた」とカメラの前で涙ぐんだりします。これが、台本なしのぶっつけ本番で行われているのですから、すごいものです。鶴瓶さんは、出会ったばかりのごく普通の人たちから、まさに縦横無尽に深い話を聞き出しています。
鶴瓶さんの聞き方を見ていると、前回お話しした「思い出せば、答えられる質問」を多用しているのがよくわかります。たとえば、夫婦の「なれそめ」が聞きたい場合、いきなり「二人のなれそめは?」と聞いたら相手は考え込んでしまうでしょう。そこで鶴瓶さんは、「二人は、どこで知りおうたん?」と聞いていきます。これなら、思い出せばすぐに答えられますよね。そうすると、「駅前の電器屋で知り合った」という答えが返ってきたりします。
すかさず、鶴瓶さんは「駅前の電器屋」というキーワードに食いつきます。すると、「その電器屋に奥さんが勤めていた」「当時はそこが街のサロンみたいなものだった」などの話が出てきます。そうしているうちに、ご夫婦の頭の中には当時の記憶がたくさん甦ってきます。さらに、「思い出せば、答えられる質問」には割とスラスラ答えられるので、口の動きも滑らかになってきます。相手がこのような状態になれば、「なれそめ」を聞き出すのも簡単になります。「目的のことを聞き出す前に、ウォーミングアップをさせている」という感じですね。
以前にもお話ししましたが、人は聞かれたことに答えようとして常に準備しているわけではありません。言わば、「準備不足」の状態にあります。ですから、いきなり難しい質問(考えなければ、答えられない質問)をしても答えられないわけです。鶴瓶さんは、このことをよくわかっているのでしょう。まして、「家族に乾杯」という番組で相手にしているのは一般の人であり、しかも鶴瓶さんの後ろにはカメラが回っているのですから(笑)。そこで、相手が答えやすいように、まずは「思い出せば、答えられる質問」を投げかける。鶴瓶さんは、こうした配慮を徹底して行っているようにお見受けします。私が提唱している「サポーティブ リスニング」の、まさに「お手本」のような聞き方だと思います。
明石家さんまさん
明石家さんまさんは、軽妙な語り口でよくしゃべります。それなのに、「さんまのまんま」というトーク番組を30年近くも続けています。「よくしゃべる」だけでなく、「しゃべらせる」こともできるわけです。
さんまさんは、おしゃべりな人ですが、相手が話し始めると自分のしゃべりをピタッと止めることができます。これはすごいことで、普通はどうしても制御がきかずにダラダラしゃべり続けてしまうものです。さんまさんは、バーッとしゃべって、パッと止まる。その「ストップ・アンド・ゴー」が絶妙です。それにつられて、ゲストはついついテンションが上がってしまうのでしょう。番組を見ていると、普段見せないような表情を見せたり、本音を話したりするゲストが多いように思います。
もうひとつ、さんまさんの聞き方で上手だなと思うのが「おうむ返し」です。「おうむ返し」は、相手の話を受け止める重要な手法です。これを使う利点は、相手の話を深掘りしやすくなることです。
たとえば、
さんま:この町のどこが好きなの?
ゲスト:うーん、美味しいお店がたくさんあるところですかね~。
さんま:ほー、うまい店がたくさんあるんだ!
という使い方をします。
そうすると、ゲストの人は「自分の話を受け止めてくれている」と感じて、「美味しいお店」について話を続けやすくなります。
もしここで、さんまさんがおうむ返しを使わずに、「へ~え」とか「ふ~ん」などの相槌を打つだけだったら、どうでしょうか。おそらくゲストの人は、「美味しいお店」について話していいものかどうか、少しばかり戸惑うことでしょう。皆さんも、話を聞いている時に、「へ~え」とか「ふ~ん」と相槌を打った後に微妙な沈黙が続いて、気まずくなった経験はありませんか?それは、話し手がこの話題を続けてよいのかどうか戸惑っているからです。
さんまさんは、自分もおしゃべりなだけに、話し手の気持ちをよく理解しているのでしょう。「おしゃべりだけど、聞き上手でもある」という点で、とてもバランスがとれていると思います。そうしたバランスが、さんまさんが女性にモテるポイントなのかもしれません。
黒柳徹子さん
「おしゃべりだけど、聞き上手でもある」という点では、黒柳徹子さんも当てはまります。「徹子の部屋」はもう40年近く続いている長寿番組です。この番組は録画ですが、黒柳さんの強い意向で編集は一切しないのだそうです。
勉強熱心な黒柳さんは、必ず事前にゲストについてレクチャーを受け、自分なりのメモを作るそうです。本番は、そのメモを見ながら進めるそうですが、あらかじめ決まった質問などは用意しないのだそうです。仕事、家族、趣味など、なるべく違う話題を4つくらい話してもらうようにして、ゲストの人となりが伝わるようにバランスをとっているそうです。
とはいえ、黒柳さんがバランスをとろうとしても、ゲストのほうが一つの話題をいつまでも話し続けてしまう場合があります。編集は一切しませんから、これを放置してしまうと内容が偏ってしまいます。そんな時、黒柳さんは、「そういえば、あなたアメリカにお家をお買い求めになったんですって?」という感じで話題を転じます。これは、いわゆる「話の腰を折る」という行為です。でも黒柳さんがやると、「ポキッ」という感じではなく「フニャッ」と柔らかく折れる感じがします。
これは、「そういえば」という言葉のおかげだと思います。「ところで」という言葉を使うと「ポキッ」と折った感じがしますよね。でも「そういえば」という言葉を使うと、なんだか柔らかい感じがします。皆さんも、話題を転じる時に「そういえば」という言葉を使ってみてください。使ってみると、なかなか便利な言葉だということがわかるはずです。黒柳さんの会話をよく観察してみると、言葉遣いにこうした細かい配慮が感じられます。「やはり、長年トーク番組を続けているだけのことはあるなあ…」と、いつも感心しながら見ています。
今後、バラエティやトーク番組を見る時は、ぜひ聞き手に注目してみてください。少し慣れれば、「この聞き方は上手だなあ」ということに気付くようになります。そうなれば、自然と「聞き方のお手本」が増えていきます。ぜひ、楽しみながら取り組んでみてくださいね。
この連載も終盤に差し掛かりました。次回は、鶴瓶さん、さんまさん、黒柳さんなども実践している、「相手のホンネを聞き出す秘訣」についてお話ししたいと思います。