あなたに必要なのは「話す力?」or「話し合う力?」⑦

部下を 竹槍で戦わせていませんか?(2)(column46)

対話では、一方通行的にならないことが大切です。そのためには、「話す⇔聞くの切り替え」が必要です。でも、何事も切り替えって難しいですよね。特に、何か提案する時は「話すぞ!」と力んでいるので、そこから聞く姿勢に移行するのが難しい。だからこそ、「切り替える」ということをハッキリ意識して練習することが必要です。そして、こうした「抽象的な概念を具体的な行動に結びつける」ことは、経営や組織運営にも応用がききます。

 

では どうすればよいのか?

それでは、竹槍で戦っている人が、どうすればよいのか考えてみましょう。ここで、あらためて「対話は回すものだ」ということを思い出してください。 

 

 

もちろん、現実的には、こんなに簡単にグルグル回りません。慣れないうちは、このように「クルッと半周回す」ことができればいいと思います。 

 

 

私は数多くのセールスパーソンに対話の教育を行っています。そこで、若い方によく見かけるのが一方通行的なコミュニケーションです。対話ができている人はごく少数で、多くの人は、以下のような「竹槍型」「傾聴型」になっています。 

 

 

竹槍型の人は、驚くほど相手の話を聞いていません。提案して終わり。しゃべり切って終わり。だから、次の提案につながらず、頑張っても生産性が上がらない。最近は顧客も忙しいので、「用が有ったら連絡するから、なるべく来ないでくれ」と言われてしまう。

 

傾聴型の人は、相手の「いい慰み者」になりがちです。ヒマな顧客には可愛がられますが、とはいえ話を聞かされているだけで、必要なことは聞き出せないので、やはり生産性が上がりません。

 

提案したら、その内容について検討してもらい、考えていることをあれこれと話してもらう。当たり前のように思えますが、これが意外とできないんですね。ポイントは「切り替える」ということです。何事も、切り替えって難しいですよね。特に、提案する時は「話すぞ!」と力んでいるので、そこから気持ちを切り替えて聞く姿勢に移行するのが難しい。

 

切り替えることができるだけで 大きな違いが生まれる

話す⇔聞くをクルッと切り替えて、対話を半周回す。これができるようになるだけで、大きな違いが生まれます。たとえば、30人の顧客に提案すれば、それに対して30人分のフィードバックが得られるわけです。顧客を回れば回るほど、提案内容に厚みが増していきます。さらに、30人分の知見が得られる立場にいるわけですから、成長も速まります。「営業はお客様に育てられる」と言いますが、まさにその通りなのです。

 

これが、話すことばかり考えている「竹槍型」だと、30人に提案しても同じことを30回くり返すだけです。くり返すことで、しゃべりはスムーズになりますが、提案内容に厚みが増すわけではない。本人も自己成長感が得られず、やがて飽きてしまいます。

 

さらに、言われっぱなしになってしまう「傾聴型」だと、回れば回るほどストレスが溜まって辛くなります。顧客に恵まれればいいのですが、そうでないと仕事を続けるのが難しくなります。

 

「切り替え」を学ぶにはOJTが有効だが…

ベテランの人は、こうした「切り替え」を無意識のうちに行っています。だから、当たり前に思えてしまって、切り替えることの重要性に気づかないし、気づいたとしても無意識にやっているのでうまく教えられません。

 

そのため、このようなプロセスを学ぶのは、「教わる」よりも「OJT」が有効だったのです。いわゆる「カバン持ち」として、先輩と一緒に顧客回りをする。そうすると、先輩が顧客とやり取りしているプロセスを見ることができます。

 

よく、「背中を見て学ぶ」と言いますよね。これ、どうしてそう言われるのかご存知ですか? 背中を見ると、その人と同じ視点になれる。向かい合って教わるよりも、背中を見て真似たほうが、当事者になって行うイメージがしやすい。だから、暗黙知的なノウハウを学ぶには、背中を見て真似るのが効果的なのです。「学ぶ」の語源は「真似ぶ」だそうです。「背中を見て学ぶ」なんて前近代的な感じがしますが、それなりに合理性があるわけですね。  

 

とはいえ、背中を見て学ぶのは、やはり時間がかかります。それと、前回お話ししたように、現代の職場は背中を見て学ぶのに適した環境ではなくなりました。そこで必要になるのが教育です。

 

前回、ビジネススキルには、①テクニカルスキル(業務遂行能力) ②ヒューマンスキル(対人関係能力) ③コンセプチュアルスキル(概念化能力) の3つがあるとお話ししました。

 

そして、①テクニカルスキルに比べて、②ヒューマンスキル ③コンセプチュアルスキルは学ぶメリットがわかりにくいとお伝えしました。対話力について学ぶのは、まさにこの②③の強化にあたります。そこで、学ぶメリットを整理してみましょう。

 

若手の方が学ぶメリット:ヒューマンスキルの強化

若手の方が対話力を学ぶのは、②ヒューマンスキルの強化にあたります。経験的にヒューマンスキルを習得するのも大切ですが、それだけだと時間がかかるし、漏れもあるものです。セオリーを体系的に学ぶことで、成長スピードを速めるのと、バランスよく成長できるというメリットが得られます。

 

経験的に学ぶためには、たくさんの試行錯誤と気づきが必要です。とても大切ですが、とはいえ一から十まで経験で学ぼうとするのはナンセンスです。たとえば、現代の私たちが物理を学ぶのに、モノが落ちるのを見て万有引力の存在に気づくところから始めませんよね。これは所与のものとして学び、さっさと先に進みます。

 

ところが、ヒューマンスキルにおいては、一から十まで経験で学ぼうとする傾向があります。これ、時間がもったいないと思います。すでにセオリーが体系化されている分野がたくさんあるのですから、それらは所与のものとして学んでしまって、先に進むべきだと思います。

 

ベテランの方が学ぶメリット:コンセプチュアルスキルの強化

ベテランの方が対話力を学ぶのは、②ヒューマンスキルだけでなく、③コンセプチュアルスキルの強化にあたります。自分が「何となくやっていること」が言語化される。そうすると、意識的に行うことができるので、安定性・確実性が高まります。

 

さらに、言語化されることによって、これまで自分の中で暗黙知だったノウハウを、他の人と共有することが容易になります。すなわち、教えやすくなるわけです。そのため、組織的に見ると、若い人よりもベテランが学ぶほうがメリットは大きいと言えます。

 

ベテランが学ぶメリットは、これだけに止まりません。経営者や事業部長クラスの方が対話力強化講座を学んで、業績が向上した例がたくさんあります。これは、受講者の方々が、「対話の概念」を経営や組織運営に活かしたからです。

 

たとえば「切り替える」という概念は、対話だけでなく、スポーツでも、経営でも、幅広く応用がききます。受講した経営者の方々とお話しすると、「なるほど、そういう活かし方があるのか!」と勉強になることがたくさんあります。これぞ、まさにコンセプチュアルスキル(概念化能力)ですよね。

 

面白いのが、対話の概念を見事に経営に活かしている社長が、個人的にはあまりお上手ではなかったりします(笑)。でも、構わないのです。学んだことを、その人なりに、必要なところに活かしてもらえればいいわけですから。

 

 

今回は、若手のセールスパーソンをイメージしながらお話ししました。次回は、マネージャーの対話について考察します。