あなたに必要なのは「話す力?」or「話し合う力?」⑩

強制ではなく 対話によって集団を動かす(3)(column49)

今回は、「非協力的な人たちで、動揺が感じられない人たち」をどう動かすか考えていきます。これらの人は、情ではなく「理」の人たちです。やっかいですが、実は「交渉術」が有効な人たちでもあります。そこで、交渉術の使い方の一例をご紹介します。そして次に、「最後まで揺るがない人たち」をどうするか、考えていきます。

 

動揺が感じられない人を どう動かすか

前回は、「動揺が感じられる人たち」を情動に働きかけることによって動かしました。今回は、「動揺が感じられない人たち」をどう動かすか考えてみます。

  

 

動揺が感じられない人たちは「情」では動きません。この人たちを、さらに二つに分けて考えます。すなわち「理」の人たちと「信念」の人たちです。

 

「理」の人たちを どう動かすか

動揺が感じられないタイプで、最も多いのが「理」の人たちです。この人たちは、やっかいですが、実は「交渉術が有効な人たち」でもあります。「理の人は、利の人でもある」と言われます。一方で、「情」のタイプの人は利よりも感情で動いてしまうので、ロジカルな交渉術が効きにくいのです。

 

前回と同様に、まだ営業を続けているお店に個別にコンタクトをとって対話を回していきます。前回は、動揺している人たちが相手だったので、「いかがですか?」と問いかけると、いきり立って感情的にしゃべってくれました。しかし、今回の相手は「理」の人たちなので、そう簡単にいきません。

 

そこで、話してもらうように仕向ける必要があります。ここで大事なのが、対話力強化講座で教えているように「理由と共に問いかける」ということです。「理」の人たちは「理由」があると動いてくれやすい傾向があります。単に「いかがですか?」と聞くのではなく、「上司に報告しなければならないので」という理由をつけます。

 

そこで、相手が話し始めたら、反論などせず、うんうんと聞いていきます。その際には、これも講座で教えているように「肩を並べる」ようにしましょう。 

「理(利)」の人には 交渉術を使おう

ここで、交渉術を使います。言葉としては「上司に報告するために」と言いながら、「上司の理解(承認)を得るために」という流れにもっていきます。

 

元々は、「こちらがパチンコ店に休業をお願いする立場」でしたね。これは、交渉では弱い立場です。しかし、これまでに情で動くタイプも含め9割の人が休業してくれています。ということは、まだ営業を続けているのは「ごく少数の限られた人たち」であり、「その人たちの存在を認めるには、それなりの理由がなければ理解(承認)されない」というロジックを組みます。これは、「状況を利する」という交渉術の考え方です。

 

それから、「依頼を通すよりも、依頼を退ける立場のほうが、圧倒的にラクで強い」という考え方も利用しています。これ、ちょっとわかりにくいので、例をあげましょう。

 

たとえば、一般に「お役人」というのはエラそうですよね。あれは、役人は「申請を退けることができる立場にいる」からです。この書式が違う、記載に誤りがある、といって難癖をつけて依頼を退けることができる。依頼を通そうとするよりも、退ける立場のほうが圧倒的にラクで強いわけです。

 

これ、交渉ですごく使えるのです。

 

たとえば、家賃交渉で使うことを考えてみましょう。今、コロナ騒動のせいで飲食店などは厳しい状況のところが多いと思います。そこで、家賃交渉する際に、「家賃を3割ほど減額してもらえませんか?」とお願いする人が多い。そうすると、「こちらが依頼したことを、相手が退ける立場」になってしまいます。だから、これではうまくいきません。

 

本当に厳しいのなら、「コロナの影響を大きく受けており、家賃が払えません」と一旦言い切ってしまいましょう。そうすると、相手側が「それでも払ってください」とお願いする立場になります。おかしなもので、お願いする立場になると、「多少折れてでも…」と考えるようになります。こちらから言わなくても、「3割ほど減額するので、なんとか払ってくれないか」という案が向こうから出てくる。

 

これが、「状況を利する」「依頼を通すよりも、依頼を退ける立場のほうが、圧倒的にラクで強い」という交渉術の考え方です。

 

このやり方、相手が「理」のタイプだからこそ通用します。「情」の人に「払えません」などと言うと、「だったら出ていけ!」みたいに極端な話になってしまう。交渉術って、万能ではないのです。

 

話を戻しましょう。

 

「上司に報告するために」と言って、相手の考えを聞き出します。講座で学んだように、肩を並べるようにする。そうすると、相手と対立的にならずに済みます。

 

攻略のポイントは 一点に絞る

理の人は理屈っぽいので、「自由権の話」「社員の生活を守る」「お客様の要望に応える」など、営業を継続する理由をあれこれ述べ立てると思います。ここでは、決して相手の土俵に乗ってはいけません。自由権の議論をしたって仕方がないのです。

 

攻略のポイントは、一点に絞ります。「それは、貴店だけが営業を継続する理由にはならない」と言い続けましょう(依頼を退ける立場のほうが 圧倒的にラクで強い)。「ウチの店だけ特別に休まない理由」を論理構成するのって、実は相当難しいはずです。

 

また、業界全体から圧力をかけてもらいます。今回の休業要請でも、業界団体からの圧力が効果的だったと聞いています。

理の人も人間ですから、否定され続けると疲弊します。交渉の時、相手を疲弊させるのは非常に有効です。「こんな面倒くさいことを続けて、しかも業界全体を敵に回すより、二・三週間なら休んだほうが得策かな」と思わせる。論破なんかしなくていいのです。疲弊させればいい。

 

ちなみに、「交渉術なんて、現実の場面では使えないよ」と言う人がいますが、そんなことはありません。そう言う人は、対話力が足りないのです。対話力がベースにない交渉術は、小手先のテクニック、空理空論になってしまいます。

 

最後まで揺るがない人を どうするか

世の中には、情でも利でも動かず、疲弊もしない人がいます。ある種の信念をもっていて、最後まで揺るがない。割合にすると5%もいない。ごく少数の人たちです。

 

付和雷同しないで、きちんと自分の考えで動く。見方を変えれば、あっぱれな人たちです。ただ、敵に回すとホントにやっかいです。

 

今回は、「全店休業」を目指すので、こういった人たちとも対峙しなければなりません。しかし、通常の組織運営であれば、これらの人たちとはやり合わず、異動や転職を勧めるなどしたほうが得策だと思います。非常に優秀なのに、方向性が違うわけです。方向性を合わそうとしてお互いに消耗するよりも、適材を適所に移したほうがいいですよね。

 

最後は 「一個人」として対話する

信念のタイプの人に有効なのは、「組織人としてではなく、一個人として対話する」ことです。

 

大規模な土地開発などで、地権者とやり合う際も、最後まで動かない信念の人たちがいます。これらの人をどうやって動かしたのか、記録を読んで紐解いてみると、ほとんどが担当者個人の信念や魅力、覚悟をもってやり合っています。

 

その際には、相手を決して否定せず、心からリスペクトしましょう。たまたま立場が違うから、今は互いにやり合っているけど、その確固たる姿勢は素晴らしい。心から相手を認めて、リスペクトする。その上で、一個人として腹を割って話し合う。信念のタイプの人に有効なのは、この手段しかありません。

 

しかし、ここまでやるかどうかは、意見の分かれるところだと思います。組織として、担当者に「一個人として腹を割って対応してこい!」とは言えませんよね。一般的に考えれば、「休業に協力してくれている人たちに示しがつくように、ポーズだけでもいいから休業を依頼し続けろ」というくらいだと思います。

 

ここで、これまでのお話を整理してみましょう。 

 

 

これまで3回に分けて「強制ではなく 対話によって集団を動かす」というテーマでお話ししてきました。

次回は、「対話によって 短時間で協力者を募る」というテーマでお話ししたいと思います。