あなたに必要なのは「話す力?」or「話し合う力?」⑧

強制ではなく 対話によって集団を動かす(1)(column47)

緊急事態宣言の中、「3密」となるレジャー施設に休業してもらいたい。しかし、日本では法的に強制することはできません。そこで、対話が必要になります。今回は、こうした「苦痛の伴う要請を、集団にどうやって徹底させるか」について考えてみたいと思います。

 

お題:パチンコ屋への休業要請をどう徹底させるか?

緊急事態宣言の中、頑なに開店しようとするパチンコ屋があります。日本では休業を強制することができないので、なかなか大変ですよね。それをほぼ全店休業させているのですから、行政の皆さんの苦労は並大抵ではありません。本当に頭の下がる思いでいます。

 

これ、マネジメントにも通じる話だと思います。ある方針をメンバー全員に徹底しなければならない。メンバーに苦痛を強いる、評判の悪い内容です。でも、組織全体のために協力してもらう必要がある。

 

こういう時、多くの人は「どうやって説得しようか…」と頭を悩ませます。そして、一生懸命に方針を伝えようとします。でも、これでは、前回お話しした若いコンビニ店舗指導員と同じレベルですよね。すなわち、話すことばかり考えている、一方通行的な「竹槍型」です。

 

誤解してほしくないのですが、私は熱心に伝えること自体を否定するつもりはありません。大事なことです。でも、ある程度の人数を動かす場合には、それだけでは限界があります。もう少し、戦略的にやりましょう。

 

まずは 全体を分けて考えよう

集団をある方向に動かそうとする。その際には、一括りにせず、必ず分けて考えるようにしましょう。大まかな分け方は、以下のようになります。

 

あくまで経験則ですが、一般に組織というものは、「体制に対して協力的なのは2割ほど。あとは、中立的(様子見)が6割、非協力的なのは2割ほどだ」と言われています。

 

第一段階:協力的な2割を動かす

まず、全体にアナウンスして協力的な2割の人を動かしましょう。これは、比較的容易なはずです。それこそ、方針に従うように協力を呼びかけるだけです。

 

重要なのが、ここでひるまないことです。全体にアナウンスして2割しか動かなかったら、ちょっとガックリきますよね。でも、現実的にはそんなものです。

 

それから、この段階で「どうやって説得しようか…」とウジウジ考えないでください。ここで悩んでしまうのは、時間がもったいない。次の段階で説得材料が得られますので、さっさとアクションを起こしましょう。

 

第二段階:中立的な6割を動かす

協力的な2割の人が動いてくれたら、すぐに彼らと対話をしましょう。まずは、協力への感謝を述べる。次に、協力する際の意思決定のプロセスや、協力してよかったこと・大変だったこと・意外な発見などについて問いかけます。

 

ここで、いろんな話が出てくると思いますが、全体的には「協力してよかった」という意見が多いはずです。

 

それはなぜか。人間には「自己正当化」という強い欲求があります。様子見をせず、最初から動こうとする人たちは、明確な意思をもっています。そういう人は、自分の意思決定が正しいと思いたいものです。それが困難な意思決定であればあるほど、自分は正しいと思い込みたい。さらに、それを称賛されたいという欲求が生まれます。

 

そのため、最初に動いてくれた人たちと対話すると、「協力してよかった」という意見が多く出てくるはずなのです。そして、その中に「中立的な6割の人たちを説得する材料」がゴロゴロ見つかるはずです。

 

「ベンツの法則」とは

この現象。俗に「ベンツの法則」などと言われています。車の、あのメルセデスベンツです。

 

ベンツって、高額ですよね。しかも、大柄な人が多いドイツの車ですから、小柄な日本人には合わない。日本の狭い道路事情にも向きません。いい車ではありますが、冷静に考えれば日本ではオーバースペックです。普通の人は、「そこまで必要なのかな? どうせ買い物くらいしか乗らないんだし…」なんて考えると思います。

 

多くの人がそのように考える中で、あえて高額なベンツを買う。これは、困難な意思決定です。購入後、その人の心理がどうなるか。やはり自己正当化したくなります。なんとしても、「自分の選択は正しかった。あえて、この選択をしてよかった」と思い込みたくなるのです。

 

そうすると、無意識のうちに「この選択をしてよかった理由」を探し始めます。「ゆったり運転できて癒される。これは、何ものにも代えがたい」「長距離を運転すると疲れ方がちがう。これが仕事のアウトプットに大きく影響する」「乗るだけでなく、見るだけでも満足感が得られる。だから、日常的に満足できる」「安全性がまるで違う。大切な人を乗せるんだから、それくらいお金をかけて当然だ」「車は単なる道具じゃなく、その人の生きる姿勢が現れるもの。ポリシーの感じられない国産車なんかで姿勢が示せるわけがない」等々。自己正当化する理由が、出てくる出てくる…(笑)。

 

また、ベンツは顧客が他の顧客を紹介してくれる比率が高いそうです。興味深いことに、紹介の場合はより高額な車が売れるのだとか。ベンツは小さなものからA、B、C、E、G、Sなどのクラスがあります。顧客同士で、「まあEクラス以上でないと、ベンツとは言えないよね」なんて話し合っている。これは、「困難な意思決定を共にする仲間」を作りたいのですね。

 

人間には「困難な意思決定を行った場合に、それが正しかったと思い込みたい=自己正当化欲求」があります。そして、その正しさを証明するために、無意識のうちに理由を探し出し、それを熱く語り、より多くの仲間を作ろうとする。集団を動かす時には、こうした人間の特性を上手に利用しましょう。

 

ベンツの法則を活用してみよう

話を戻しましょう。まずは、協力的な2割の人を動かし、その人たちと対話することによって、中立的な6割の人たちを説得する材料を得ます。

 

対話のよいところは、協力的な2割の人と話し合うことによって、説得材料が聞き出せるだけでなく、彼らの考えがハッキリすることです。協力的な2割の人たちは、初めからキレイに自己正当化できているわけではありません。こちらが上手に対話することによって、考えが整理されていきます。

 

そうしたら、協力的な2割の人たちの意思決定を称賛し、「判断に困っている人たちを助けてくれないか」と働きかけます。すると、協力的な2割の人は、こちらが無理に頼まなくても、中立的な6割の人たちを説得してくれます。

 

中立的な6割の人たちは、どうしようかと様子を見ています。その彼らに対して、具体的な説得材料を提示すると共に、取材源である協力的な2割の人たちから直接説得してもらう。そうすると、様子見の人たちはドドッと動き始めます。一度こうした流れができれば、しめたものです。

 

ここまでで、合計8割が協力してくれるようになりました。次回は、残りの非協力的な2割の人たちをどう動かすか考えていきます

 

 

ちなみにですが、「ベンツの法則」はいろんなところで見受けられます。「だめんず」に入れ込んでいる女性は、だめんずの魅力を熱く語ります。都会から移住して「田舎暮らし」をしている人は、田舎暮らしの魅力を語りたがります。また、仲間を増やそうとします。

 

皆さんの周りに、何かの魅力を熱く語る人はいませんか? そうしたら、「ベンツの法則」を思い出してみてくださいね。

⇒ 次回「非協力的な人たちを どう動かすか」を読む