column11 話は「過去から現在へ」と聞くのがコツ

3.話を徐々に深めていく

 今回も、引き続き「相手のホンネを引き出す秘訣」についてお話ししていきます。

 

 前回は、相手のホンネを引き出すために必要なステップの1と2をご説明しました。

1.相手の話す意欲を高める

2.自分が聞きたいことを話してくれるよう依頼する

3.話を徐々に深めていく

4.ホンネを引き出す

 

 今回のコラムでは、3について解説していきます。

 

 1⇒2のステップを経て、こちらの聞きたいことを相手が話し始めたら、まずはしっかりと傾聴していきます。以前ご説明したように、傾聴の時に大切なのは「相手に反応を示すこと」です。「あなたの話は興味深いよ。もっともっと聞かせてください」というメッセージを伝えるつもりで、しっかりと反応しましょう。そうするだけで、相手は気持ちよく話せるようになります。

 

時系列を辿るように話を聞く

 その上で、さらに話を深めるために重要なポイントがあります。それは、「できるだけ、時系列を辿りながら話を聞いていく」ということです。記憶には、「時系列を辿ると思い出しやすく、逆行すると思い出しにくい」という特性があります。これは話を聞き出すのに非常に重要なポイントです。ぜひ覚えておいてください。

 

 よく、「過去をふり返る」と言いますよね。試みに、「この10年間」をふり返ってみましょう。まず、文字通り時系列を逆行するように、現在から過去に向かって10年間をふり返ってみてください。そうすると、あまり思い出すことがなくて、「何だか、あっという間だったなあ…」という感じがするはずです。

 

 次に、時系列を辿るように思い出していってみましょう。現在が2014年ですから、10年前というと2004年ですね。ご自身は何をしていましたか?職場は今と変わりありませんか?ちなみに、この年は小泉政権の時代で、アテネオリンピックがあり、北島康介選手の「チョー気持ちいい!」が流行語になりました。では、2005年、2006年はどうだったでしょうか?こうして順を追って過去から現在まで時系列を辿っていくと、あれこれとたくさんのことが思い出されてくるはずです。これが、「時系列を辿る」「逆行する」の違いなのです。

 

 ですから、たとえば「プロジェクトの反省会」などを行う場合も、時系列を辿るようにするのが得策です。いきなり、「じゃあ皆さん、ふり返ってみて反省点はありますか?」という感じで始めると、誰も発言せずに気まずい雰囲気になるものです(苦笑)。そうではなく、「このプロジェクトが始まったのは3月の終わりで、桜の咲く頃だったね。それから、こんなことがあって…」という感じで、反省会の冒頭で時系列を辿って思い出させるようにします。そうしてから反省点を聞き出すようにすれば、具体的な意見がたくさん出てきて、充実した反省会になると思います。

 

 余談ですが、ふとした機会に過去をふり返って、「時が経つのは早いなあ。それなのに、自分は無為に時間を過ごしているなあ…」と自己嫌悪に陥ることがありませんか?反省するのは大切ですが、自己嫌悪するのはよくありません。これも、時系列を逆行するように思い出しているからいけないのです。そういう時は、なるべく具体的に「ある時点」のことを思い出して、そこから時系列を辿るようにしましょう。そうすれば、「こうして思い出すと、いろいろなことがあったなあ…」と懐かしく感じられるようになり、自己嫌悪に陥ることがなくなるはずです。

 

 もう一つ余談ですが、歳をとると月日の流れが速く感じられるものです。これは、一般的には、「10歳の一年は10分の1であり、60歳の一年は60分の1である。歳をとればとるほど分母が大きくなるので、月日の流れを速く感じるのだ」と解釈されています。これも一理ありますが、「歳をとって、これまでの数十年をふり返った時に、『あっという間だったなあ…』という気がすることから、月日の流れが速く感じられるのだ」という側面もあるわけです。

 

 余談が続きました。話を元に戻しましょう。時系列を辿ると、たくさんのことが思い出せます。ですから、ある出来事について詳しく話を聞きたい時には、初めから順を追って時系列を辿りながら聞いていくのが得策です。そのため、私は話を聞き出す時に「過去をふり返ってみましょう」という表現は使わないようにしています。なるべく具体的に、ある時点の記憶を思い出してもらい(言わば「過去に舞い戻る」という感じです)、そこから順を追って話を聞いていくようにしています。こうするだけで、たくさんの情報が聞き出せるようになります。

 

もう一つの利点「共感が生まれる」

 時系列を辿るのは、もう一つ利点があります。時系列を辿ると、話が断片的にならず、つながり(ストーリー性)が生じます。そうすると、話を聞く側としても理解しやすく、話を聞いているうちに相手の体験を共有するような感じになります。そうすると、会話をしている両者の間に共感が生まれてくるため、話が自然と深まってくるようになります。

 

 警察などで取り調べを行う際にも、この時系列を辿る方法が採られています。よく、ドラマなどで、「お前がやったんだろ!どうだ?」と高圧的に吐かせるシーンがありますが、昔はともあれ現在はそのようなことは行われていません。そんなことをしたら問題になってしまいます。実際には、たとえば殺人事件の容疑者を取り調べる場合、「被害者と知り合ったのはいつ頃で、初めは友好的だったけど、ある時ひどいことを言われて殺意が芽生えて…。殺害当日の朝は…」という感じで、時系列を辿りながらくり返し聞いていきます。そうして、アリバイの有無や、証拠・証言との整合性をチェックしていくのだそうです。

 

 刑事や検事の人に話を聞いてみると、取り調べで大切なのは「ああ、この取調官にだったら、本当のことを話してもいいかな…」と犯人に思わせることなのだそうです。対立的な関係にならずに、わかってあげようとするわけです。犯罪者とはいえ人の子ですから、やはり「できればウソをつきたくない。本当のことをわかってもらいたい」という気持ちがあります。犯行に至るまでのプロセスを、時系列を辿りながら順を追って聞き出し、話の内容に共感していってあげると、犯人の心の中には「もっとわかってもらいたい気持ち」が生まれます。もちろん犯人には、「自分に有利な証言をしようとする打算」もあります。話を深めていって、「気持ち」と「打算」を葛藤させて、徐々にホンネを聞き出していくのが取調官の腕なのだそうです。

 

 この、「時系列を辿りながら話を聞く⇒話の内容をよく理解して共感を示す⇒深い話を聞き出す」という手法は、様々な場面で使えます。部下からトラブルの経緯を聞き出したり、顧客からプロジェクトの状況を聞き出したりする時に、意識して使ってみてください。うまく時系列を辿れるようになると、短時間で深い話が聞き出せるようになります。

 

 それから、この手法は思春期や反抗期の子供から話を聞き出す時にも使えます。よく、「運動会から帰ってきた子供に、『今日はどうだった?』と聞いたら、『別に…』と言われてしまった…」という話がありますよね(笑)。「どうだった?」というのは、「考えなければ、答えられない質問」なので、考えるのが面倒くさくて「別に…」と答えてしまうのです。こんな時は、「今日最初の種目は何だったの?」などと質問してみましょう。これは「思い出せば、答えられる質問」であり、かつ「ある時点に舞い戻る質問」です。これなら「別に…」という答えは返ってこないはずです。そして、具体的な答えが返ってきたら、その後は順を追って時系列を辿るようにしてみましょう。年頃の息子さん、娘さんをお持ちで、もっとコミュニケーションをとりたいとお考えの方は、ぜひ一度試してみてください。

 

 今回は、話を徐々に深めていく手法についてご説明しました。これを実行するだけでも、相手から多くの情報とホンネが聞き出せるはずです。次回は、さらに話を深めてホンネを聞き出していくための手法を、詳しくお話ししていきます。