column12 違和感を指摘されると、ついホンネが出る

4.ホンネを引き出す

 今回も、引き続き「相手のホンネを引き出す秘訣」についてお話ししていきます。

 

 前回は、相手のホンネを引き出すために必要なステップの3をご説明しました。

1.相手の話す意欲を高める

2.自分が聞きたいことを話してくれるよう依頼する

3.話を徐々に深めていく

4.ホンネを引き出す

 

 今回のコラムでは、4について解説していきます。

 

 1⇒2⇒3のステップを経れば、こちらの聞きたいことの大部分は聞き出すことができるはずです。しかし、「本当のところ、どうなのか」というホンネを聞き出すには、もう一歩踏み込んでいく必要があります。今回は、その「もう一歩踏み込む」ために有効な手法について、3つばかりご紹介します。

 

「感想・事例・比較」を述べる

 もう一歩踏み込んで話を聞いていくための「王道」といえるのが、「感想・事例・比較」を述べることです。ただ傾聴するだけでなく、こちらから積極的に話題を提供することで、よりホンネにアプローチすることができます。

 

 たとえば、顧客が計画中のプロジェクトについて話を聞き出していくとしましょう。いろいろと聞きたいことはありますが、その中でも「プロジェクトの予算」は是非とも知りたいところですよね。しかし多くの場合、計画中のプロジェクトの予算はトップシークレットのはずです。そのため、そこまでうまく話を聞き出していても、「ところでご予算は?」と一歩踏み込んだ途端に、「いやいや、そこはちょっと勘弁してよ…」と煙に巻かれてしまうことが多いのではないかと思います。

 

 こんな時、「感想・事例・比較」が効力を発揮します。たとえば、こんな感じです。

 

「結構大きなプロジェクトになるんですねえ」(感想を述べる)

「そうすると、ご予算のほうはいかがでしょうか?」(一歩踏み込む)

「他社では、A社さんが8億円という事例があるんですが」(事例を出す)

「御社のほうが規模も大きいし、工期も短いですからねえ」(比較する)

 

 こう言われてしまうと、顧客企業の担当者としては「何も言わない」というわけにはいかなくなります。はっきりした数字は出さないまでも、「へえ、A社さんは8億かあ。豪儀だなあ…」とか、「短期間で仕上げなきゃいけないし、やっぱりそれくらいの予算が妥当だよね…」などの反応が得られます。こうした反応が得られれば、「ある程度の線」が把握できるわけです。

 

 この「感想・事例・比較」を用いる手法は、スポーツ紙の記者たちが「選手の年俸」を聞き出すのにも利用されています。たとえば、「今季、一億円の大台に乗るかどうか注目されているA選手」がいたとしましょう。あるスポーツ紙の記者は、こんなふうに声をかけて年俸を聞き出しているそうです。

 

「やあ、A選手。今年は大活躍でしたねえ。素晴らしかったですよ」(感想を述べる)

「どうでしょう?届きましたか?大台に」(一歩踏み込む)

 

 ここで、A選手の表情をよく見れば、「大台に届いたかどうか」はある程度判断がつくものです。もし、「これは大台に届いていないな…」と判断したら、大台より低い金額で妥結したライバル選手の事例を出します。

 

 「同期のB選手。彼も頑張ったけど、彼よりもやはりAさんの活躍のほうが素晴らしかったですねえ。Bさんは年俸9,000万でサインしたそうですが、やはり彼よりは上でしょう?」(事例・比較を述べる)

 

 こう言われてしまうと、A選手の中に「ライバルよりは上だと言いたいプライド」や、「大台に届かなかった悔しさ」などがこみ上げてきます。そうすると、「球団から、一億円プレーヤーには、それなりに社会的責任が生じるので、もう少し待てって言われたんです」とか、「タイトル料などのボーナスを設けるから、大台に乗るのはもう少し我慢しろって…」など、交渉のやり取りがポロッと出てきたりします。

 

 ここまで来たら、もう一押しです。「そうですかあ。じゃあ、今回は『お預け』みたいな感じですね。ということは、9,800万円くらいでしょうか?」「ええ、まあ、そんな感じです…」こうしたやり取りを経て、翌日「A選手 年俸9,800万円(推定)」という文字が紙面を飾ることになります。

 

 このように、もう一歩踏み込んでホンネを引き出したい時には、「感想・事例・比較」を適切に述べることが有効です。そのためには、「聞き出す技術」だけでなく、やはり「その分野についての幅広い知識・経験・情報を持っていること」が必要になります。

 

「ホンネトーク」「ぶっちゃけトーク」をする

  ここまで読んで、「言っていることはわかるけど、実際にやるのはちょっと難しいなあ…」とお感じになった方もいると思います。たしかに、「感想・事例・比較」を適切に述べるには、ある程度の訓練が必要です。そこで、もう少し簡単な方法をお話ししましょう。それは、いわゆる「ホンネトーク」「ぶっちゃけトーク」をすることです。まずこちらからホンネを言う、ぶっちゃけることによって、呼び水のように相手のホンネを誘うわけです。

 

 たとえば、私は企業の人材教育の仕事に携わっています。この仕事では、顧客企業が人材育成でどんな苦労をしているのか、また失敗をしているのかを把握することが重要です。しかし、プライドの高い企業だと、こうした苦労話、失敗談を外部に話したがらない傾向があります。

 

 こんな時は、逆に私自身が人材育成で苦労したこと、失敗したことを率直にお話しします。そうして、「人材育成は難しいのだから、ある程度苦労したり失敗したりするのは、やむを得ないことですよ」というニュアンスを暗に伝えます。そうすると、顧客企業の担当者もホッとして、ホンネを打ち明けやすくなります。

 

 ただし、「ホンネトーク」「ぶっちゃけトーク」を行う際には注意が必要です。単に苦労話や失敗談をするだけだと、相手は面白がってくれるものの、「なんだ、大したことないじゃないか」と軽んじられてしまいます。これでは、元も子もありませんよね(苦笑)。最終的に、「自らも、たくさんの苦労や失敗を重ねてきたからこそ、お客様によい提案ができる」などの結論につなげることが大切です。何事も、ストーリーが大切なのですね。「率直」と「軽率」は紙一重ですから、気をつけるようにしましょう。

 

違和感を指摘する

 逆に、より高度な技もご紹介しておきましょう。難易度は高いけど、ホンネを引き出すのにとても有効な手法があります。それは、話を聞いていて「本当にそうかなあ?」と違和感を覚えたことを、きちんと指摘することです。

 

 話を聞き出すには「相手の立場になって親身に話を聞く」ことが重要ですが、これは「相手の言うことを何でも鵜呑みにすること」ではありません。しっかりと聞いていると、「本当にそうかなあ?」とか「ちょっと大袈裟なんじゃないかな?」と感じるところがあるはずです。

 

 そうしたら、それを柔らかく指摘します。何度も言いますが、人には「自分のことをわかってもらいたい」「できればウソはつきたくない。正直に話したい」という思いがあります。自分の話を親身になって聞いてくれている人には、もっとわかってほしいと思うものです。とはいえ、「ここまでは話せるけど、ここから先は話せない」という一線があります。その一線を乗り越えさせるのに、「違和感を指摘する」のが非常に有効なのです。

 

 これは実際に捜査関係者の方から伺った話です。ある殺人事件の容疑者を取り調べていた時に、「どうも動機が弱いなあ。この程度の理由で、この容疑者が殺人を犯すかなあ?」という違和感を覚えたそうです。そこで、改めて取り調べをして、その違和感をやさしく指摘したところ、「実は、一人でやったんじゃなくて…」という新たな供述が出てきたそうです。実際には、主犯格の人物が別にいたのですね。その容疑者は共犯者への義理があり、自分は単独犯だと言い張っていたのです。とはいえ、取り調べが進むうちに、「やっぱり、本当のことをわかってもらいたい」という思いが強くなったのでしょう。そこに、「違和感がある」と指摘されてしまったので、ついつい本当のことを話してしまったようです。

 

 こうした違和感を指摘するためには、想像力豊かに話を聞いていく必要があります。また、相手の話だけでなく、関係者の話や周辺の情報なども把握して検証する姿勢も大切です。さらに、違和感を覚えたことを冷静にやさしく指摘する必要があります。たしかに難しい技術ですが、もう一歩踏み込んで聞いていく時に非常に有効な手法ですので、ぜひ覚えておいてください。

 

 

この連載も、次回が最終回となりました。これまで、「聞き出す」ことについていろいろとご説明してきましたが、まだまだお伝えしたいことがたくさんあります。次回は、技術的なことだけでなく、私が大切にしている考え方や心構えについて、あれこれとお話ししたいと思っています。