(3)適切な質問をする
質問する時には、相手が答えやすいように配慮する必要があります。これも当たり前のように思えますが、「では、どのように質問すれば答えやすいのか?」と改めて考えてみると、意外と難しいですよね。余裕があれば、あらかじめ聞きたいことを整理して、質問を準備しておきましょう。なるべく簡潔な表現にして、失礼な質問や、何が聞きたいのかわからないような質問をしないようにする。このように気をつけるだけで、相手はグンと答えやすくなります。
質問の順番に気を配る
質問の順番にも気を配る必要があります。質問には、「思い出せば答えられる質問」と「考えなければ答えられない質問」があります。原則として、「思い出せば答えられる質問を先にして、考えなければ答えられない質問を後にする」と考えてください。これは、順番を考える際に大切なポイントです。ぜひ覚えておいてください。
対話の時、必ずしも相手の頭の中に答えが用意されているとは限りません。実際には、話しているうちに考えがまとまって答えが出てくることが多いものです。そのため、「まず、思い出せば答えられる質問を先にして、相手の頭の中に考える材料を並べてもらう。次に、考えなければ答えられない質問を投げかけて、考えをまとめて答えを出してもらう」というステップを踏むと無理がないわけです。
簡単な例を挙げましょう。あなたが遅くまで仕事をしていたら、上司から急に「おい、食事に行こうか。何が食べたい?」と聞かれたとします。これ、答えるのが難しいですよね(笑)。事前に「これから何を食べようかな」と考えていれば別ですが、そうでなければ戸惑ってしまいます。それから、ご馳走してくれるのかどうか、その場合の予算もわかりません。上司の好き嫌いも考えなければ失礼になるかもしれません。いきなり「考えなければ答えられない質問」をぶつけられると、こういう状態になるわけです。
一方で、「今日の朝・昼は何を食べたか」「夜はいつもどんなところで食べているのか」などは思い出せば答えられる質問です。こうした話題をやり取りしているうちに、頭の中に考える材料が並んでいきます。さらに、やり取りの中で上司の好き嫌いや予算も把握できるかもしれません。このような状態になってから、「晩御飯は何を食べに行きたいか」ということを考えれば、答えを出しやすくなります。
次はビジネスの例を挙げましょう。お客様のところを訪問して、「状況」と「要望(ニーズ)」を聞きたいとします。この場合、「状況」は思い出せば答えられますが、「要望」は未来のことですから考えなければ答えられません。ですから、まず「状況」を先に聞いて、次に「要望」を聞いていくのが適切な順番です。
昔の大阪商人たちは、このことを心得ていて、「どないでっか?」「儲かりまっか?」という状況を聞く質問を挨拶として使っていました。こう問いかけられると、ついつい自分の近況を話してしまうものです。そうして世間話をしながら、顧客の頭の中に「ニーズについて考える材料」を並べた上で商談に臨んだわけです。やはり商売の街ですね。東京のように、挨拶もそこそこに商談に入るような営業スタイルは、大阪商人からすると「野暮」なのだそうです(笑)。
コーチングとの比較
コーチングを学んだ人は「クローズドクエスチョン」「オープンクエスチョン」という言葉をご存じだと思います。その概念と近いのですが、対話の時には「思い出せば答えられる質問」「考えなければ答えられない質問」という分類のほうが実用的だと思います。
コーチングでは、相手に考えさせるためにオープンクエスチョンが推奨されます。これは、「コーチとクライアント」という役割がはっきりしているからこそ可能になります。ごく普通の対話でオープンクエスチョンを多用すると、相手は答えるのに窮してしまって「面倒くさいヤツだなあ」と思われる危険があります。
こちらが聞きたいことは、多くの場合、「どんな、なんで、どうして、どのように」など、相手にとって考えなければ答えられない質問であることが多いものです。こうした質問を投げかけて、なかなか答えが返ってこない時は、「防衛本能が働いている」か「頭の中に考える材料が並んでいない」のどちらかです。
もし、「ああ、まだ頭の中に考える材料が並んでいないんだな」と判断したら、思い出せば答えられる質問をいくつか投げかけてみましょう。そうして、相手がポツリポツリと答えるのを待っていれば、自然と相手の頭の中に考える材料が並んできます。対話の時は、このように相手の立場になってあげることが大切です。よく理解しておいてください。
(4)積極的に傾聴する
皆さんは「積極的傾聴」という言葉を聞いたことがあると思います。人は、話しているうちに考えや気持ちが固まって整理されてくるものです。ということは、ある程度「まとまりのない話」につき合ってあげないと、本当に聞きたい話は出てこないということになります。この「相手の話につき合ってあげる」というのが傾聴の原点です。
世の中には、傾聴をやたらと難しいテクニック論で説明する人がいます。たとえば、「相手と目線が合った時は、利き腕と反対の方向に外しましょう」とか。こんなこと、いちいち気にしなくていいですよ(笑)。たしかに傾聴は奥が深いのですが、細かいテクニックよりも、ちゃんと相手の話につき合ってあげる、寄り添ってあげることを意識したほうがよいと思っています。
でも実際には、忙しいからといって話につき合わない人は多いものです。相手の話がまだるっこしいと、すぐにイライラが顔に出てしまう。核心の部分だけズバッと聞こうとしたり、少し話を聞いただけで「言いたいことはこうだろ?」と結論を押し付けたりしてしまう。部下からの報告を、パソコンに向かいながら聞いている上司なんて最悪です。たしかに時間がないのはわかりますが、もう少し相手と向き合って話をする姿勢を大切にしてほしいものです。
若い方には、「会話に間が空くのが怖くて、相手が話すまで待っていられない」という人が多いと思います。沈黙を恐れて一方的にしゃべってしまうわけですね。それから、よく知らない分野の話や、自分にとって都合の悪い話、耳の痛い話につき合うのも難しいものです。
話を聞いていくのに必要なのは、スキルだけではありません。「話を聞ける状態」を作ることも大切です。体調が悪かったり、気持ちに余裕がなかったりすると、話を聞いていくのは難しいものです。聞くスキルを磨くのは「トレーニング」ですが、聞ける状態を作るのは「コンディショニング」です。ゴルフなどのスポーツと同じく、話を聞いていくためにはコンディショニングが大切です。特にマネジメントに携わる人は、ぜひコンディショニングに留意していただきたいと思います。
反応があると、相手は頑張れる
もうひとつ言うと、ただつき合うだけでなく、相手の話にきちんと反応してあげることが大切です。人は誰でも、自分の行動に反応があるとやる気になります。たとえば、自分の話に応じて嬉しそうな顔をしたり、残念な表情を見せたりしてくれると、聞いてくれている感じが伝わってきて、もっともっと話す気になります。逆に、聞き手が能面のような顔で無表情に聞いていたら、すぐに話す気がなくなってしまいます。
ですから、相手の話を聞いている時には、なるべく反応を示すようにしましょう。反応を示す代表的な手段として、アイコンタクトをとる、うなずく、同調する、相槌をうつ、おうむ返しをする、などがあります。前回のコラムで、聞き上手なタレントさんの話をしましたが、「話を聞いている時に、どのように反応を示しているか」を注意して見てみてください。上田晋也さんのおうむ返しなんて絶妙です。このように見ていくと、「上手いなあ」と感じることが多くなると思います。
引きずる前に、寄り添うことが大切
これまで、「相手の話につき合ってあげることの大切さ」をお話ししてきました。しかし、現実的には、ビジネスで話を聞く時には「自分の聞きたいことを掘り下げるように聞いていく」ということも必要です。その際に、いきなりこちらの聞きたい方向に話をもっていこうとすると、相手は抵抗します。逆に、まず相手の話したいことを聞いてあげた上で、「せっかくの機会ですから、こういったことも教えてもらえませんか?」などと言って、こちらの聞きたい方向にもっていくと、相手は素直についてきてくれます。
すなわち、自分の聞きたい話を掘り下げていく際には、まず相手の話に寄り添うようにつき合ってあげて、タイミングを見計らって自分の聞きたい方向に話題を引っ張っていき、そして話を掘り下げていくのが得策だといえます。
私が提唱しているサポーティブリスニングでは、①相手の言いたいことを汲み取るように聞いていく ②自分の聞きたい方向に踏み込んでいく ③自分の聞きたいことを掘り下げるように聞いていく という3つのプロセスを学びます。演習もたっぷりと行いますが、この3つのプロセスの中で一番難しいのが①です。それだけ、常日頃は相手の話につき合っていないわけですね。使っていない筋肉を使うような感じなのでしょう。演習後、「疲れた」といってぐったりする人がたくさんいます(笑)。
話を聞いていくのは、実際には大変な行為です。普段、話を聞いていて疲れないのは、「相手の伝えたいことを、いいかげんに聞き流している」「自分の聞きたいことだけ、好き勝手に聞き散らかしている」からです。
でも、相手の話につき合ってあげて、喜んでもらえるのは嬉しいものです。そして、自分の聞きたい話が掘り下げられるようになると、ビジネスでもプライベートでも大きなメリットが得られます。あせらず、気長に取り組んでいきましょう。
今回も、最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回は、 (5)相手の立場になって親身に話を聞く、(6)相手が考えを深めるための題材を提供する の2項目についてご説明いたします。