column2 「聞き上手な人」の条件とは?

  「聞き上手な人」というと、皆さんはどのような人を思い浮かべるでしょうか?「穏やかに相槌を打ちながら、相手の話を気持ちよく聞いてあげられる人」というのが、多くの人が持つ共通のイメージかもしれませんね。でも、それ以上のことはなかなか思い浮かばないのではないでしょうか。そこで今回は、聞き上手な人の条件を少し掘り下げて考えてみることにしましょう。

 

 前回もお話しした通り、多くの人は「聞くこと」よりも「伝えること」を優先して考えています。そのため、聞くことの難しさや奥の深さにそれほど気付きません。実際にやってみるとわかりますが、相手の話を聞き流さずに、しっかりと受け止めながら聞き続けるのは、かなり忍耐力の要る行為です。慣れていない人だと、5分も続けられないかもしれません。

 

 では、聞き上手な人はどうしてそれができるのでしょうか?それは、聞くことの大切さが分かっているからです。だからこそ、少しくらい大変でも我慢できるわけです。そうしているうちに、少しずつ聞くスキルが磨かれていきます。逆に、聞くことの大切さが分かっていない人は、我慢できないから上手にならないわけです。ちなみに、聞き上手な人は、先天的な才能ではなく、後天的な努力によって生まれます。「幼い頃から聞き上手だった」という人って、あまり聞いたことがありませんよね(笑)。

 

 こうしたことから、私なりに定義すると、聞き上手な人の第1の条件は「聞くことの大切さをよく理解している」ということになります。聞き上手であるという「現象」だけを見るのではなく、聞き上手になることができた「原因」のほうに目を向けてみると、根本的な条件が理解できると思います。

 

「聞くことの大切さ」に気付いた経験

  ここで恥ずかしながら、私自身の経験を少しお話ししましょう。私が「聞くことの大切さ」を最初に思い知ったのは、学生時代に女性とデートした時です。私は中学・高校と男子校で学び、しかも所属は柔道部。残念ながら、女性と接する機会はありませんでした。そんな私がデートすることになれば、当然「いったい何を話せばいいのかな?」と不安になります。前日には、いろんなジャンルの雑誌を読んで勉強したりして、今思うとばかばかしい努力をしていたものです(笑)。

 

 当日になってみると、そうした努力はまったく必要なかったことがわかりました。待ち合わせ時間に遅れてきた彼女は、「家が厳しいので、休日に一人で出掛けるのは結構大変なの」と話し始めました。そうした、言い訳とも愚痴ともつかないような話を聞いてあげているうちに、彼女の「おしゃべりスイッチ」が入ったのでしょう。その後はずっと彼女がしゃべりっぱなし。私は若干圧倒されつつ、自分には姉も妹もいないことから、「へーえ、女の子のいる家って大変なんだなあ・・・」と新鮮な気持ちで聞いていました。夕方、彼女は「今日はいっぱいしゃべれて、すごく楽しかった!」と喜んで帰っていきました。

 

 私からすると、何もしゃべっていないし、面白いこともしていない。ただひたすら話を聞いていただけで、こんなに喜んでもらえたわけです。「聞くってすごいことなんだな・・・」とよくわかりました。今でもそうですが、私は考えがまとまらないと話せないタイプで、当時は人と会話するのが苦手でした。思いついたことをポンポン発言して場を盛り上げるタイプの人をうらやましく感じていたものです。それが、「話し上手にならなくても、聞き上手になれば会話がラクになるんだ」ということに気付いて、視界が開けたような気がしました。これは、当時の私にとって本当に大きな発見でした。

 

この経験は、社会人になってからも役に立ちました。若いうちは、年上の人を相手にビジネスをする機会が多いものですが、そのような時には生半可な知識をひけらかすよりもひたすら聞くことを心掛けていました。年上の人からすると、自分の話をよく聞いてくれる若者は可愛いものです。いつの間にか、「見所があるヤツだ」と認められるようになりました。こうして多くの先輩たちに目をかけてもらったおかげで、若い頃から大きな仕事を動かせるようになりました。周囲からは「あいつはオヤジキラーだ」と言われていましたが(笑)、そのコツは何といっても話をよく聞くことにあったわけです。

  

ビジネスにおける、「聞き上手な人」の条件

  プライベートと違い、ビジネスのコミュニケーションでは、単に相手と仲良くなればよいわけではありません。相手からしっかりと情報を収集しなくてはいけないものです。その際に大切なのは、決して「話を引き出すテクニック」などではありません。もっと大切なことがあります。そのことをお話ししましょう。

 

 突然ですが、皆さんは、自分の腕時計の文字盤を詳しく思い浮かべることができますか?いつも見ているはずなのに、意外と明確に思い描けないのではないでしょうか。人間は、興味のないことは何度見ても覚えられないものです。「時計を見る」とはいうものの、実際には「時計が表しているもの(時刻)」を見ているのであって、時計そのものを見ているわけではありません。そのため、「いつも見ているのに、ちゃんと覚えていない」という現象が起こるわけです。

 

 これは時計だから別に構いませんが、同じことを人に対して行っている場合があります。例えば、セールスパーソンの中には、顧客そのものに興味をもたず、「顧客が商品を買うかどうか」だけに興味をもっている人がいます。これは、まさに「時計に興味をもたず、時刻ばかり見ている」のと同じですよね。こういう人は、「顧客の状況や課題などの情報を収集して、それに対するソリューションを提供する」という営業活動は決してできません。

 

 同じようなことが、マネジメントでも行われています。上司の中には、部下そのものに興味をもたず、「部下が業績を上げるかどうか」だけに興味をもっている人がいます。このような上司は、「部下の状況に応じて、適切に指示・命令・指導する」というマネジメントは決してできません。それだけでなく、部下の変化に気付かないので、「部下が急に辞めたいと言い出した」などと大騒ぎする可能性があります。実は前々からサインが出ていたのに・・・。

 

 さらに、同じようなことは子育てでも行われています。残念ながら、子供そのものに興味をもたず、「子供が勉強するかどうか」だけに興味をもっている親がいます。子供は敏感なものです。このような親に対して、心を開こうとするでしょうか。

 

 相手に興味がなければ、相手についての情報が入ってきても頭の中に残らない。情報収集するにあたって、何よりも大切なのは「相手に興味をもつ」ということです。当たり前のように感じられますが、相手に興味をもたずに接している人が意外と多いことを、ぜひ理解してほしいと思います。

 

 マザー・テレサは、「愛の反対は憎しみではなく無関心である」という言葉を残しましたが、相手に対して興味をもつのは愛情をかけるのに近いものがあります。顧客に、部下に、子供に対して興味をもつのは、愛情をかけるのに近いですよね。これは、相手にとっても嬉しいものです。「自分のことを理解しようとしてくれる」と感じれば、心を開いてくれやすくなります。そうなれば、「話を引き出すテクニック」など使わなくても、情報収集が容易になるわけです。

 

 こうしたことから、聞き上手な人の第2の条件は「相手に興味をもっている」ということが言えます。

 

 今回は、「聞き上手な人」の根本的な条件を2つ挙げました。とはいえ、これだけを満たせばよいのかというと、そう簡単ではありません。特に、「聞き出す」という行為は意外と難しいものです。次回は、その理由などをご説明したいと思います。