column21 年上の部下とわかりあう術 column22 「扱いが難しい部下」をどう動かすか

 

 今回は、「部下との対話」について考えていきます。最近は、以前のような「同質な人材によるピラミッド型の組織」は少なくなり、上司・部下の関係も大きく変わってきました。自分よりもずっと年下だったり、逆にずっと年上だったり、また国籍などのバックグラウンドが異なる、「ギャップが大きい部下」をマネジメントすることが多くなりました。それだけ、昔に比べてマネジメントが難しくなっていると言えます。そこで今回は、ギャップが大きい部下をもつ上司の皆さんに、ヒントとなるお話をしたいと思っています。

 

価値観をすり合わせる

 先ほど申し上げたように、現在の組織は多様な人材によって構成されるようになってきました。ということは、マネジメントのアプローチも変化して当然と言えます。しかし、マネジメントに携わる人たちを見ていると、いまだに多くの人が「上意下達」の動き方にこだわっているように思えます。実際に、「なんとかして部下に自分の考えていることをわからせたい。そのためにどうすれよいか」という相談を受けることがよくあります。

 

 自分が考えていることを相手にわかってもらうためには、お互いの価値観の違いを把握することが必要です。近い世代で、共通点が多く、同じ常識をもっている部下が相手なら、考えていることをそのまま言葉にすれば理解してくれるでしょう。逆に、ギャップが大きい部下が相手の場合、お互いの価値観の違いを把握しておかないと、いくら言葉を尽くしても理解してもらえることはありません。

 

 ということは、ギャップが大きい部下をもつ上司は、「自分と部下の価値観をすり合わせる」という作業を行う必要があるわけです。顧客ならともかく、仲間内でこんなことをやるなんて、なんだか面倒ですね。でも、がっかりしないでください。多様な人材で構成されている組織は、各人の特徴をうまく活かせばそれだけ生産性が高まる可能性があります。マネージャーの腕次第で大きく伸びる組織を任されているわけですから、ぜひ前向きに取り組んでくださいね。

 

価値観のすり合わせに有効な「ライフストーリー・インタビュー」

  価値観をすり合わせるのに、私がお勧めしたいのが「ライフストーリー・インタビュー」を行うことです。簡単に言うと、これまでの人生経験を一気に通して語ってもらうことです。もちろん、決して強要してはならず、お互いの合意の上で行う必要があります。「過去のことを無理やり話せと言われた」なんて受け止められたら、それこそパワハラになってしまいますからね。それから、プライベートの細かいところや、ナーバスな問題を根掘り葉掘り聞くのは厳禁です。

 

何度も言っていますが、人間には「わかってもらいたい」という欲求があります。部下としては、上司から「君のことをよく理解したいから、これまでの経験を差支えのない範囲で聞かせてくれないか?」と言われれば、むしろ嬉しいはずです。実際に、私はこれまでたくさんの部下をもちましたが、皆喜んで自分の経験を語ってくれました。

 

 やり方は、できれば物心ついた時からゆっくりと聞いていきます。どんな子供だったのか、それが中学、高校・・・と経ていくにつれ、どのように変化していったのか。そして、社会人になってからどうか。異動、転勤、転職など、節目となった出来事を思い出しながら話してもらいます。人間の記憶は、「時系列を過去から現在に辿るようにしていくと、たくさんのことが思い出せる」という特性があります。話している本人がビックリするくらい、いろいろなエピソードが出てくると思います。

 

そのため、ライフストーリー・インタビューを行うと、話している部下本人もメリットが得られます。経験の棚卸をすることで、自分自身を正しく認識することができるからです。当然ながら、聞いているほうも部下の特徴がよくわかります。人は同じような行動をくり返す傾向があります。安全な選択肢を好む人もいれば、リスクをとるタイプもいます。熱しやすく冷めやすい人もいれば、地味だけど根気強い人もいる。そういった傾向がわかります。

 

自己認識と他者認識のギャップを埋める

 「自分はこういう人間である」という自己認識と、周囲の人から見た「この人はこういう人間である」という他者認識は、往々にして一致しないものです。一般に、自分に対する評価は甘くなりがちですが、とはいえ自分を過小評価している場合も少なくありません。この自己認識と他者認識のギャップが大きいのは、個人としても組織としても好ましいことではありません。ライフストーリー・インタビューを行うことで、このギャップを修正することができます。

 

 また、部下としても「わかってくれた」という実感がわくと、上司の言うことを素直に聞くようになります。やはり、自分のことをよくわかってくれる人の話は、多少耳が痛くても受け入れるものですからね。そうした意味で、扱いに困っているような部下にこそ、ぜひ実施していただきたいと思います。

 

 私は仕事柄、数多くの人たちにライフストーリー・インタビューをしてきました。その経験で言うと、20代で2時間、30代で3時間、40代で4時間ほどかかります。もちろん、こんなに時間をかけなくても構いませんよ。人生を通して語ってもらえばよいだけですから、あまり硬直的に考えないでくださいね。それから、「いきなり部下に行うのはハードルが高い」という場合、同僚や親しい知人などに頼んで練習させてもらうとよいでしょう。

 

 余談ですが、私は亡父にもライフストーリー・インタビューを行いました。おかげで、父親の人生がよく理解できたし、話し終えた父も満足そうにしていました。親の人生って、案外と子供はわからないものです。葬儀の参列者の話を聞いて、親の意外な一面を知ることも珍しくないと言います。父親を亡くした後に、「もっと会話しておけばよかった」という人も多いですが、私はありがたいことにそういった後悔がありません。ちょっと照れくさいかもしれませんが、親御さんが健在でいらっしゃる方は、ぜひその人生経験をお聞きになってみてくださいね。

 

文句や要求ばかり言う部下の話を聞くには

  先日、「私は部下の話をなるべく聞かないようにしている」という人がいました。理由を問うと、自分の努力が足りないことを棚に上げて、文句や要求ばかり言う部下が多いのだそうです。「新規開拓が難しいから、もっと顧客リストがほしい」「忙しいから、もっと人手がほしい」など。本人によれば、「そうした話をうっかり聞いてしまったら、部下は要求を飲んでくれたと勘違いしかねない」というわけです。

 

 このような悩みをもつマネージャーは、実際にたくさんいると思います。とはいえ、こうして部下の話を聞くのを初めから拒絶してしまうのは、やはり好ましいことではありません。

 

 少し難しいですが、このような時には「受け止めるのと、納得するのを、ハッキリ分けて聞く」ということを実践してください。部下の話を受け止めはするが、内容に納得がいかなければハッキリとNOを言います。初めから部下の話を聞かないのは、「NOを言うのが嫌だから」という側面もあるように思います。これは、厳しい言い方をすると、部下を思っての行動ではなく、自分に甘いのです。

 

 「受け止めるのと、納得するのを、ハッキリ分けて聞く」のは、一つコツがあります。それは、「状況確認をしっかりする」ということです。前回のコラムで、「顧客の要望やニーズだけを聞こうとしてはいけない。なぜなら『単なる思いつき』や『身勝手な要求』であることが多いから」ということをお話ししましたが、これは部下についても同じです。

 

 たとえば、先ほどのような部下の要求を鵜呑みにすると、「顧客リストを買い与えたのに、ちっとも当たろうとしない」「人を入れたのに、まったく残業が減らない」などの事態に陥りかねません。

 

 こうした事態を避けるために、文句や要求をだけを聞くのではなく、状況をきちんと説明させることを習慣にしましょう。新規開拓がなぜ難しいのか。仕事がなぜ忙しいのか。納得するまで聞いていきます。そうすると、「そもそも、仕事の優先順位がついていない」というお粗末な状況が見てとれるケースがよくあります。そのような状況を放置したままで、部下の要求を飲んでも、望むような効果は得られませんからね。

 

悲観的な部下の話を聞くにも有効

 「受け止めるのと、納得するのを、ハッキリ分けて聞く」ということで、もう一つ使用例を挙げます。それは、ネガティブな話が出てきた時の対応についてです。悲観的な発言をする部下って、結構多いですからね。たとえば(ちょっと極端ですが)、部下が「僕はもうダメです。絶望です」と発言したとします。

 

 こうした時に、「何を弱気なことを言っているんだ! 大丈夫だよ!」といきなり発言を否定してしまうと、相手はかえってムキになってしまいます。とはいえ、「そうだなあ。絶望だなあ」と受け止めてしまったら、相手はガックリきてしまうでしょう(笑)。

 

 そうではなく、「相手が、もうダメだ、絶望だと『感じている』」ことを受け止めます。答え方としては、「う~ん、そうなんだ。自分では、もうダメだと思ってるんだ」という感じですね。そうしてから、「こういう面はどうなの? こういう可能性はないの?」と視野を拡げる質問をゆっくりと投げかけます。そうすると、まだ試していない手段が見えてきたりします。その上で、「まだ試していない手段があるということは、もうダメだ、絶望だというわけではないよね」という結論にもっていきます。

 

 この手法は、カウンセリングなどでも使われています。たとえば、災害などで辛い環境に置かれている人と話をすると、「先が見えない、もう絶望だ」という言葉が出てくることがあります。その際に、「たしかに、これだけ辛い状況に置かれると、絶望だと感じるであろう」ことは受け止めます。しかし、決して絶望ではない。ここを納得してはいけないのです。

 

ここまで、概念的な話が続きました。経験豊富なマネージャーの方を念頭に置いて書いていたので、少し話が難しくなりましたね。最後に、すぐに使える具体的なノウハウを二つばかりご紹介しておきましょう。

 

原因や理由を聞くのに便利な「魔法の質問」

  何かトラブルがあった時に、部下から原因や理由を聞きたい。しかし、部下のほうが防衛本能を働かせてしまって、こちらが知りたいことを素直に答えてくれない場合があります。たとえば、クレームが発生した際に、「どうして、お客様を怒らせたんだ?」などと聞いても、「いや、僕は何もしていませんよ」などという言い訳が返ってくることがあります。特に中国人は「面子」を大切にするので、自分が不利になるような報告をすることは滅多にありません。

 

 それから、部下を採用しようとして面接を行う時に「当社への応募動機は?」などの質問をしますね。そうすると、「御社は、業界の雄として・・・」なんて、取ってつけたような応募動機を聞かされることがあります。もっと、本音の理由が聞きたい。そんなことはありませんか。

 

 こういう時、便利な質問があります。それは「きっかけは?」という聞き方です。「お客様が怒り始めたきっかけは何なの?」「当社に応募しようとしたきっかけは、どのようなものですか?」という使い方をします。そうすると、具体的な話が出てきやすくなります。この「きっかけは?」という質問は、本当に便利で使い勝手がいいので、ぜひ様々な場面で活用してみてくださいね。

 

ちょっと引っかかった時には

 部下の話を聞いている時に、「あれっ?」という感じで、ちょっと引っかかる感じがする時がありませんか? あるいは、部下が何か言いたそうにして口ごもっているような場面に出くわすこともあるかと思います。こういう時に、すかさずツッコミを入れたり、言いたいことをうまく汲んであげたりできると、大きなトラブルや突然の退職などを未然に防ぐことができます。

 

 このような時には、「というと? とすると? そうすると? それって? ということは? どうした? なにそれ? なになに? どゆこと?」など、話の先をうながす相槌(やや「問いかけ」に近い)を使ってみましょう。この相槌を使うと、相手の言葉尻や、言葉の切れ端が拾いやすくなります。部下の不満や不安、戸惑い、ためらいなどを感じ取った時に、スッと使えるようになると効果的です。

 

 今回も、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。次回は、「上司との対話」について考えていきます。今も昔もサラリーマンの酒の肴は「上司の悪口」です。たしかに、「やっかいな上司」はたくさんいますからね。しかし、本当に上司ばかりが悪いのでしょうか?本当は、上司の意図が汲めていないのかもしれません。そこで次回は、上司との対話について考察したいと思います。