これからの時代の「新任管理職の対話術」①

これからの時代の「新任管理職の対話術」(column27)

以前は、「上司・部下」という言葉通り上下の関係でした。しかし、今は上司より部下のほうが優れていることがたくさんあるし、上から目線でものを言うとパワハラだと受け取られる危険もあります。求められるコミュニケーションスタイルが変わってきているのです。今回は、この点について考察していきます。

 

新任管理職の皆さんに、希望と勇気が与えられるお話を

本コラムでは、新任管理職の皆さんに向けて、コミュニケーションに関するアドバイスを提供していきます。現代は、多様化・複雑化が進み、人口減少やマーケットの縮小が始まるなど、困難な時代だと言われています。こうしたタイミングで、新たに管理職に任命されるのですから、何かと不安ですよね。そんな皆さんに、希望と勇気が与えられるようなお話をたくさんしていきたいと考えています。

 

私はコミュニケーション・コンサルタントとして、数多くの企業を訪問し、様々なご相談をいただいています。企業ごとに抱える課題はそれぞれですが、その背景にあるものには共通性があります。これこそが、「困難な時代だ」と言われているものの元凶ですね。ここでは、それを二つ取り上げてみたいと思います。一つ目は「以前と比べて、わかりにくい時代になった」ということ。もう一つは、「人を動かすのが難しい時代になった」ということです。

 

多様化・複雑化が進み、「わかりにくい」時代

皆さんは、「いつかはクラウン」というフレーズを聞いたことはありませんか?1980年代の初めにCMで使われた名コピーです。当時はこの言葉通りに、小型車から徐々にサイズアップして、いつかはクラウンに乗りたいと憧れていた人が本当に多かったのです。実に「わかりやすい」行動パターンですよね(笑)。

 

しかし、現代はどうかというと、車への考え方は「人それぞれ」だと思います。クラウン以上の高級車に憧れている人もいれば、車は動けばいいと思っている人もいます。さらに、車は必要ないと思っている人も多いことでしょう。これもひとつの多様化の現れです。私は個人的に、以前の「皆が同じ方向を見ていた世の中」よりも、むしろ現代の「人それぞれの世の中」のほうか好ましいと思っています。とはいえ、人それぞれであるということは、それだけ「わかりにくい」とも言えます。

 

個人だけでなく、企業の活動もわかりにくくなりました。昔は業界の二番手・三番手企業は、トップ企業の背中を見て経営していたものです。だから、似たような企業が多かったし、実際に業界ごとに一括りにして理解することができました。しかし、今は企業経営において差別化という概念が当たり前になり、各社とも同業他社と違う特徴を出そうとして懸命な努力をしています。「同じ業界だから」と一括りにするのは難しくなり、それぞれの企業をよく見なければ理解できなくなりました。

 

優位性で人を動かすのが難しい時代

これまでのビジネスコミュニケーションでは、「人を動かす」というと「説得力・提案力・指導力を発揮して…」というスタイルがすぐにイメージされました。これは、相手に対して何らかの優位性をもち、それを行使することで人を動かしていくコミュニケーションスタイルです。

 

たとえば、上司は一般的に部下よりも仕事に詳しく、さらに地位の優位性があります。また、かつてのセールスパーソンは、顧客よりも製品知識や業界情報などで優位性がありました。実は、説得力・提案力・指導力は、「優位性のある者が、その優位性を活かして相手を動かす」ということをスムーズに行うためのスキルなのです。

 

現在、大手企業で営業本部長クラスに上り詰めている人たちには、このような「優位性を活かした営業スタイル」の成功体験を、いまだに強く抱き続けている人がたくさんいます。彼らは、部下たちの動きを見て「弱い営業で情けない」「もっとクロージングを強くしろ」などと発言します。しかし、このような人たちは時代の変化が理解できていないのです。

 

彼らが一線で活躍していた頃と違い、現代はネットによる情報流通が発達したため、よほど特殊な商品や業界でない限り、セールスパーソンが知識や情報で顧客よりも優位性を保つのは難しくなりました。また、購買活動の一元化・最適化なども進んでおり、強いクロージングをしたところで効果がなかったり、逆に疎まれてしまったりすることが多くなりました。

 

上司・部下の関係でも同じことが言えます。現代は、技術の進歩が目覚ましいため、上司よりも部下のほうが詳しいことがたくさんあります。さらに、地位の優位性をヘタに使うと「パワハラだ」と受け取られる危険性があります。昔のように、「上司としての優位性を行使して部下を動かす」というのは、現実的には難しくなってきているのです。

 

ビジネスで必要とされるコミュニケーションスタイルの変化

では、「わかりにくい時代」「人を動かすのが難しい時代」に適応するにはどうすればよいのでしょうか。実はシンプルな話で、「わかりにくいのだから、もっとわかろうとするべき」なのです。すなわち、これまでよりも相手のことをよく理解しようと努力するべきです。

 

皆さんは、自分のことをよく理解してくれて、何でも相談に乗ってくれる人がいたら、その人のことを大切に思うことでしょう。そして、その人が自分にアドバイスをしてくれたら、真剣に耳を傾けますよね。つまり、相手の良き理解者・相談相手になることができれば、それほど説得力・提案力・指導力がなくても相手を動かすことができるわけです。

 

これからの時代のビジネスコミュニケーションで大切なのは、「優位性」よりも「関係性」です(※)。新任管理職の皆さんは、ぜひ「顧客や部下の良き理解者・相談相手になろう」ということについて、ハッキリと意識して努力するようにしてください。その上で提案や指導をすれば、必ず相手は聞く耳をもってくれるのですから。

 

(※誤解しないでいただきたいのですが、単に「仲良くなればいい」と言っているわけではありません。ビジネスでは、相手のことをよく理解せずに、表面上だけ仲良くなっても意味がありません。また、「コミュニケーションにおいて、優位性よりも関係性が大切だ」ということであって、「商品やサービスの優位性は必要ない」と言っているわけではありません。)

 

ここで、あらためて、自分の活動をふり返ってみてください。皆さんは、「相手のことを理解する」「自分のことを理解してもらう」、このどちらにより多くの労力を費やしていますか?もし、「自分のことを理解してもらう」ということばかり一生懸命だったとしたら、少し動き方を改めてくださいね。

 

時代が大きく変わってきているのに、変化に対応しようとせず、これまで通りの動き方をしている。これでは、いくら頑張っても仕事がうまく進まないのは当然ですよね。とはいえ、世の中の変化に対応するのに、必ずしも「決死の覚悟で、まったく新しいことを始める」という必要ありません。それよりも、少しだけ「努力の比率」を変えればいいのです。コミュニケーションに関しては、「これまでよりも、相手を理解することに労力を費やす」ことを意識するようにしてください。

  

ここまで読んできて、「そうは言うけど、本当かなあ?」「そんなに時代は変わっているのかなあ?」と疑問をもたれる方もいらっしゃるかと思います。でも、たしかに世の中は大きく変化しているのです。極端なことを言うと、実はこれまでの経験が役に立たないほど世の中は大きく変化しています。次回以降は、そうしたお話をしながら、コミュニケーションの分野において、「では、どうすればよいのか」について考察していきたいと思います。