マツコさんに学ぶ、異質な人たちとの接し方(column32)
最近は、合併・買収・統合など、企業のドラスティックな再編が多くみられるようになりました。これらは、言わば「外科的手術」です。人体と同じくそこで働く人たちにもアレルギーのような拒否反応が起こり得ます。このような時こそコミュニケーションが重要であり、「聞くこと」「対話すること」が有効です。今回は、「まったく異質な人たちと仕事しなければならなくなった時に、どうすればよいのか」について考察します。
組織にも「アレルギー反応」がある
最近は、合併・買収・統合など、企業のドラスティックな再編が多くみられるようになりました。これまでライバルとして激しく競争してきた人たちと、合併して同じ会社で一緒に仕事をする。こんなことが現実に起こるようになりました。
「マーケットが縮小するのだから、供給も減らして当然。となれば、同業同士で合併するのが合理的だ」という理屈はわかるものの、そこで働く身としては、なんだか釈然としないものです。人体と同じく組織でも、異質なものが入ってくるとアレルギー反応が起こります。実際に、ある銀行では、今でも出身行ごとに色分けして人事を行っていると聞きます。合併から数十年経っても融合せず、分離したままだということですね。
人間の脳は「カテゴリー」に分けてものごとを理解しようとするクセがあります。これは一種のエネルギー節約法で、「一括りにすることで、大体わかったつもりになる」わけです。たとえば、筆者の経歴を見ると多くの人が「ああ、リクルート出身ですか」と言ってわかったような顔をします。うーん、リクルート出身者にもいろいろな人がいるんですけどねぇ(苦笑)。
私たちは本能的に「敵か味方か」に分けてしまう
このカテゴリー分けで、最も原始的なものが「敵か」「味方か」という分類です。長い人類の歴史の中で、「目の前の相手は、敵か味方か」という判断は生命にかかわる大問題でした。そのため、私たちは生まれながらにして、そういう分類をするクセがついています。困ったことに、このクセと偏見が組み合わさると、敵を攻撃しようとする衝動につながってしまうのです。
皆さんは、「自分が偏見をもっている」という認識がないかもしれませんね。しかし、私たちは知らないうちに偏見を抱えています。わかりやすいのが食文化で、昆虫を食べるのを奇異に感じる日本人は多いと思います。でも、日本人がタコを食べるのを奇異に感じる外国人はたくさんいます。彼らにとって、魚の活き作りや踊り食いなんて、もう残酷以外の何物でもありません。この段階では、まだ「偏見」というより「価値観の違い」で済まされます。
価値観の違いが「敵」というカテゴリー分けと組み合わさると、相手に対する偏見がポンと生まれます。「まだ生きている魚を喜んで食べるなんて、なんて野蛮なヤツらなんだ」。こうした偏見が積み重なると、相手がまるで悪魔のように思えてきます。さらに、何かのきっかけで対立したりすると、攻撃しようとする強いエネルギーが発生します。このエネルギーによって敵を打ち負かし、生き延びてきた人たちの子孫が、現代の私たちなのです。
敵か味方かに分類し、敵に対して偏見をもち、その偏見を理由に激しく攻撃する。これは人種や文化に関係なく、人類が根源的に抱えている特性だと認識してください。政治家は、こうした特性を利用して票を集めます。わかりやすい例がドナルド・トランプ米大統領。彼は移民に対する偏見を煽って白人中流層の支持を集めて大統領になりました。現代でも、先進国でも、こうした人類の特性は脈々と受け継がれているのです。
一括りにして対立するより、切り崩して巻き込んでしまおう
ただ、この「敵か味方か」という分類は非常にいい加減で、その場の状況に応じてクルクル変化します。それまでお互いに争っていたのに、共通の敵が出現すると「昨日の敵は今日の友」とばかりに団結してしまう。スポーツでも、国内で激しく争っていた選手たちが、全日本代表として海外に出ると途端に団結しますよね。要するに「括り方次第で、敵にも味方にもなる」わけです。もし宇宙人が攻撃してきたら、現在対立している国や民族も地球人として団結することでしょう。
職場で異質な人たちを相手にする時に大切なのは、その人たちを一括りにして「敵」と見なさないことです。一人一人をよく見てみると、自分と出身校が同じだったり、ゴルフやサッカーなど趣味が同じだったりする人が必ずいるものです。人は、共通点が見つかると親しみを感じて打ち解けやすくなります。こうして、個別にコミュニケーションをとっていくことで、異質な人たちの集団を切り崩して、自分の味方に巻き込んでしまいましょう。そうすれば、「敵」を減らすことができるし、職場で受けるストレスを軽減させることもできます。
アプローチに効果的な「三点セット」
異質な人たちにアプローチしていく際には、 「①ギャップトーク ②ぶっちゃけ話 ③親身に話を聞いてあげる」という三点セットを行うと効果的です。
①ギャップトーク
「敵だ」「怖い」と思っている相手から優しくされると、人はそれを過大に評価してしまう傾向があります。強盗の立てこもり事件などで、人質になった被害者が「犯人は優しくて紳士的でした」などと発言することがあるのはこのためです。相手がこちらを警戒しているからこそ、思い切って優しい言葉をかけることによって、強い印象を与えることができます。
②ぶっちゃけ話
相手に本音を話させるには、こちらから先に本音を話すのが効果的です。いわゆる「ぶっちゃけ話」ですね。とはいえ、あまり内輪のことをベラベラ話すと、かえって信頼できない人だと思われる恐れがあります。あらかじめ、「この程度までなら、話してもいいかな」という線を決めて、気負わずに率直に話をするといいでしょう。
③親身に話を聞いてあげる
お互いにぶっちゃけ話をしていると、「不満、不愉快、不足、不都合、不便、不安」などが出てきやすくなります。これらは、一度話し始めるとコントロールするのが難しく、ついつい溢れるように話をしてしまうものです。もし、相手が自分の所属している組織や仲間に対して、このような「不満……」を話し始めたらチャンスです。親身になって聞いてあげるようにしましょう。
現在、MCとして大人気のマツコ・デラックスさんは、この三点セットを上手に活用しているように思います。毒舌キャラの印象とは裏腹に、周囲に対して非常に気遣いをなさる方だとお聞きしています。さらに、「アタシさあ」などと言いながら、ぶっちゃけ話をするのがお得意ですよね。
そして、相手が話を始めると、今度は適切なコメントを差しはさみながら興味深そうに聞いていきます。「マツコの知らない世界」では、ある分野に非常に詳しい「オタク」の人を相手にして、自在に深い話を聞き出しています。聞くことの専門家である私からしても、素晴らしい技術をおもちだと常々感服して見ています。
今回は、「異質な人たちと、どう接するか」について考えてきました。次回は、同じ職場で一緒に仕事をしている人たちと、もっと深いコミュニケーションをとるにはどうすればよいのかを考えていきます。この20年ほどでオフィス環境は大きく変化しました。コミュニケーションを深めるという観点からすると、難しい環境になりつつあります。次回は、そうした状況にあることを再認識するとともに、どうすればよいのか考察していきます。