これからの時代の「新任管理職の対話術」⑦

職場のコミュニケーションをどう深めるか(column33)

今回は、職場で一緒に仕事をしている人たちと、もっと深いコミュニケーションをとるにはどうすればよいのかを考えていきます。この20年ほどでオフィス環境は大きく変化しました。コミュニケーションを深めるという観点からすると、難しい環境になりつつあります。現在のオフィス環境について再認識するとともに、どうすればよいのか考察していきます。

 

「コミュニケーションが足りない」と言われても…

 最近は、「サーベイ」と呼ばれる意識調査を導入する企業が増えています。そこで、よく指摘されるのが「職場のコミュニケーションが足りていない」ということ。そう言われても、では具体的にどう改善していけばよいのか、意外とむずかしいですよね。特に、新任管理職の皆さんにとって、職場のコミュニケーションをどう深めていくかは、けっこう難題なのではないかと思います。

 

昔と違って、今はメンバーと飲みに行くのも簡単ではありません。そもそも、1回や2回飲みに行ったところで、根本的な改善にはつながりませんしね。さらに、現在のオフィス環境は、「コミュニケーションを深める」という観点で見てみると、あまり良い状況とは言えなくなってきています。

  

昔は、職場にいればメンバーがどのような状況にあるのか把握できたし、人間関係も構築できました。しかし、現代のオフィス環境では、「職場にいれば」ということは期待できません。意図的にアクションをとらないと、一向にコミュニケーションが深まっていかないのです。とはいえ、あまり面倒くさいのも困りますよね。そこで、すぐにできる対応策をご紹介しましょう。

 

全部で5つあります。それぞれ関連性があるので、バラバラに行うよりもセットで実施するほうが効果的です。

 

 ①メンバーの情報を頭に入れる

「業務遂行に関係ない個人情報は必要ない」という考え方もありますが、やはりメンバーのことはよく知っておくべきだと思います。特に、ご家族の病気や介護など、本人に負担がかかっている事項を把握しておくのは重要です。

 

それ以外に、趣味や嗜好など興味関心をもっている分野も押さえておきましょう。サッカーなどのスポーツ、ラーメンなどのB級グルメ、そしてお子さんやペットの話など。「この話題を取り上げると、喜んで会話をしてくれる」というネタが見つかると、コミュニケーションがとりやすくなります。

 

情報の収集方法は、やはり本人と面談して直接聞くのが一番です。人間には、多かれ少なかれ「自分のことを、よく理解してもらいたい」という欲求があります。「より良い職場を作るために、皆さんのことを理解したい」と率直に意図を説明すれば、ほとんどの人は応じてくれるはずです。これは、上司に対する信頼感を醸成することにもつながります。少し億劫かもしれませんが、部下をもったら「儀式」だと思って一人一人と面談していきましょう。

 

②日常の挨拶をきちんと行う

挨拶は、人間関係を円滑にする潤滑油です。相手を見て、しっかりと声を出して挨拶をする。これは、「あなたの存在を認めていますよ」という証になります。新任管理職の皆さんは、まずはご自身がしっかりと挨拶をすること。そして、メンバーにも「挨拶をきちんとしよう」と呼びかけましょう(決して「強要」にならないように)。

 

挨拶をする際に、できれば「満面の笑み」を浮かべるといいですね。どんなに緊張感の高い仕事に取り組んでいても、必要な時には満面の笑みを浮かべることができる。これって、成熟した大人でないとできないことです。「面白くもないのに笑えないよ」なんて言わないで、まずは鏡の前で満面の笑みを浮かべる練習をしてみましょう。

 

「いい顔をしていますね」というのは、「いい表情をしていますね」ということです。笑顔は世界中どこでも通用するコミュニケーションツールですから、ぜひ満面の笑みを浮かべられるようになってください。

 

ちなみに、皆さんは出社したらすぐにパソコンを立ち上げて、メールチェックなどしていませんか? パソコンに向かって集中していると、つい挨拶をしそこねたり、相手を見ないで挨拶するようなことになりかねません。お忙しいでしょうから、朝パソコンに向かうのはダメだとは言いませんが、目の前の仕事と同じく(それ以上に)メンバーと挨拶するのは大事だと認識して、決しておろそかにしないようにしてくださいね。

 

③「話しかける」のではなく「問いかける」

これは、とても重要なポイントです。このコラムの初回でお話ししましたが、これからの管理職はメンバーの良き理解者・相談相手になることが大切です。そのために、「話しかける」のではなく「問いかける」ことを意識しましょう。「何か気になることはない?」「困ったことはない?」などと常々問いかけてほしいのです。自宅などリモートで仕事をしているメンバーに対しても、忘れずに問いかけを行ってください。

 

「報連相」という言葉があります。これ、語呂がいいからこの順番になりましたが、三つの中で最も大切なのは「相談」です。トラブルが起きた時、「なぜもっと早く報告しなかったんだ!」と怒る上司がいますが、メンバーはその前に相談したかったはずです。報告・連絡はメンバーの義務ですが、「相談しやすい環境を作るのは上司の義務」です。常々、「何か気になることはない?」「困ったことはない?」と言葉にして、相談しやすい環境を作っておきましょう。

 

④仕事が一段落したら「話しかけていいぞサイン」を出す

「問いかける」を行ってから、実際に相談がくるまでにタイムラグがあります。「何か気になることはない?」と聞いた時には「ありません」と言っていたのが、後になって「そういえば…」と思い出すわけです。ところが、上司は目の前の業務に没頭している。そうすると、メンバーの皆さんはなかなか話しかけにくいものです。

 

そこで、目の前の仕事が一段落したら、「うーん」と背伸びをしたり、椅子の背もたれに身をまかせたりして、「話しかけていいぞサイン」を出してください。心の中で、「ほら、話しかけてきていいぞ」とつぶやくような感じで、ちょっと演出するんです。メンバーの皆さんは、上司のことをよく観察しているものです。魚釣りをするみたいな気持ちで、サインを出してメンバーの皆さんからの声掛けを待ちましょう。

 

⑤「ゆっくり、はやく」聞く

この場合の「ゆっくり」は、「時間をかけて」ではなく、「落ち着いて」という意味です。落ち着いて話を聞いていくことで、相手の本音や核心の部分を早く汲み取る。それが「ゆっくり、はやく」聞くということです。

 

「ゆっくり、はやく」は、自律神経の研究で有名な順天堂大学医学部の小林弘幸教授が提唱されています。この考え方は、ビジネスコミュニケーションでも大切です。慌ただしい気持ちのまま対話を重ねても、深まることはありませんからね。

 

メンバーから相談を受けたら、所作を少しゆっくりさせるような感じで、ゆったりと聞いてあげましょう。報告・連絡と違い、相談は答えがまとまっていません。結論から話す「アンサーファースト」はできないわけです。そこで、「今、困っていること」についてあれこれと説明させます。おかしなことに、人間の脳は、自分が話している内容を自分で聞いて、「ああ、今の自分はこういう状況なんだな」と理解するんです。そうすると、相談をしながら頭の中で答えが勝手にまとまってきます。

 

あわててアドバイスなどしなくていいから、ゆったりと状況を聞いてあげましょう。上司がそうしてあげるだけで、メンバーの皆さんとしては大助かりなのです。

 

この相談を受けている時間は、5分くらいで十分です。長くても10分程度。それくらいの時間は、どんなに忙しくても捻出できるのではないでしょうか。長くなりそうだったら、「後で時間をとるから」と言って一度打ち切っても構いません。

 

しばらくすると、メンバーは「上司に相談すると、自分の考えがまとまりやすい」と気付きます。これは、一種の快楽です。そうすると、何かあるたびに「上司に相談したい」という気持ちが起こるようになります。こういう状態になったら、もうしめたものです。「食事にでも行こうか」と誘うと、メンバーの皆さんは「待ってました」とばかりについてきてくれるはずです。そこで、さらにコミュニケーションを深めていきましょう。

 

今回は、職場内のことを取り上げました。次回は社外の人とのコミュニケーションについて考えていきます。以前は、「ちょっとそこまで来たもので」などと言って、取引先を気軽に訪問することができました。今は、セキュリティーも厳しいし相手も多忙なので、そんなことはできません。アポイントをとるのもひと苦労な時代です。次回は、この点を考察していきます。