これからの時代の「新任管理職の対話術」⑨

若手社員育成のカギは「おもつらい」~「一人前」とは何か、あらためて考えてみよう(column35)

いつの時代も若手の育成は大きな課題です。最近はとくに「若手に負荷がかけられず、なかなか一人前に育てられない」ことが問題になっています。今回は、こうした点について考察していきます。

 

思うように育たないのが当たり前

「若手を早く一人前にしたいけど、怖くて負荷がかけられない」という話を、よく耳にします。ゆとり世代だし、就職も売り手市場だったので苦労していない。だから、ちょっと厳しくすると、すぐに辞めてしまいそうで、上司である自分のほうが気を使って接している。こんな悩みをもつ新任管理職の方って、けっこう多いのではないでしょうか。

 

でも、「ゆとり世代は伸びない」ということは決してありません。実際に、成長意欲が高く、どんどん力をつけていく若い人をたくさん目にしています。将来に不安を感じる人が多いだけに、「早く一人前になりたい」という思いは上の世代より強いかもしれません。

 

いつの時代もそうですが、若い時って無駄が多いというか、上司や先輩が思うようにすんなり成長してくれないんですよね。あちこちぶつかって、本人は痛い目に遭い、周囲にも迷惑をかけながら、やっと何かをつかんでいく。このようなプロセスが、成長にはどうしても必要です。いつの時代も、若い人って、なかなか育たないものなんです(苦笑)。

 

ただ最近の若い人は、こうした試行錯誤のプロセスを好まなくなりました。痛い目に遭うことを怖れ、はじめから間違いのない「教科書的な正解」をほしがる。この辺りに、若手育成で気をつけるべきポイントがあるように思います。 

 

試行錯誤の重要性と楽しさを認識させよう

若い人たちが、はじめから「教科書的な正解」を求めるようになったのは、やはり近年の教育に問題がありそうです。それと、ネットが普及して検索性能が向上したのも一因かもしれません。

 

しかし、定型化された作業は別として、ふつうの仕事には教科書的な正解は存在しません。試行錯誤によって、何らかの結論に辿り着くことが必要です。これまでの日本は、この「試行錯誤のさせ方」が乱暴だったんですよね。

 

上司から「とにかくやれ!」と突き放されて、プレッシャーの中で泣きながら仕事しているうちに、いつの間にか成長していた。こんな育てられ方をした人って、けっこう多いのではないでしょうか。昔はこれが普通でした。でも今は、こういう育て方はNGなのです。

 

以前にも書きましたが、今の若い人たちは「頑張れば報われる」という価値観はインストールされていません。ワケがわからないまま頑張ることはできないんです。しかし、「意義が感じられて楽しいこと」は一生懸命に取り組みます。

 

若い部下を育てるには、「仕事には教科書的な正解はなく、試行錯誤によって何らかの結論に辿り着くことが必要だ」ということをまず認識させましょう。そして、「そのプロセスって、けっこう楽しいんだよ」と教えてあげましょう。さらに、試行錯誤の途中で苦しそうな顔をしていたら、5分くらいでいいから相談にのってあげましょう。ここでも、「伝えること」ばかり考えず、部下の相談を受けて、それを踏まえてアドバイスする対話型で育成することが大切です。

 

筆者が若いころは、試行錯誤のプロセスを「おもつらい」と表現していました。先が見えない状況の中を、手探りするように進んでいく。興味深いけど、でも精神的にはつらい。だから、「おもつらい」。部下の相談にのってあげる時は、まず話をよく聞いてあげた上で、「仕事とは、おもつらいものなんだよ」なんてアドバイスしてみてくださいね。

 

若者の失敗に対して不寛容な社会

 これは筆者の個人的な感想ですが、現代社会は若者の失敗に対して昔よりも不寛容になったように思います。元気がよすぎてハメを外したり、ムキになって相手を怒らせたり、危ないと言われているのに近づいて火傷を負ったり、これまでと違う道を行こうとして迷子になったり…等々。子供のころと同じく、社会に出てからも、人はこんな失敗を繰り返しながら成長していきます。

 

昔は、こうした試行錯誤をしている若者を、ニコニコしながら見守ってくれる大人がいたものです。しかし最近は、ニコニコするよりも眉をひそめる人のほうが多くなったのではないでしょうか。あるいは、危なっかしいからと規則を作って縛ろうとする。それだけ、社会に余裕がなくなってきたのかもしれません。

 

若い人を育成するコツは、なるべく早いうちにたくさんの失敗をさせることです。そして、さらに大きく伸ばすには、致命的にならない程度の失敗をたくさん経験させること。新任管理職の皆さんだけでなく、周囲を取り巻く我々ベテランも、こうしたことを再認識しておく必要があるように思います。

 

「一人前」とは何か

ここで、「一人前になる」ということについて、あらためて考えてみましょう。なんとなく、「周囲の人に面倒をかけなくなることだ」と考えがちですよね。とくに日本において、この考え方は根強いと思います。でもこれ、間違いというか、とても問題のある考え方です。何故かというと、「面倒をかけない」ことが目的になってしまって、周囲に相談したり協力を求めたりできなくなるからです。

 

実際に仕事で成果を出している人って、けっこう周囲の人に面倒をかけていますよね(笑)。まあ、面倒をかけるとは言わないまでも、周囲の人に協力してもらいながら仕事を進めています。ほんとうに優秀な人って、周囲を巻き込むのがうまいんです。だから、若い人には「少しくらい面倒をかけてもいいから、周囲の人に協力してもらいながら仕事が進められるようになりなさい」と言いたいのですが、いかがでしょうか。

 

筆者が若いころ、先輩たちから「小さくまとまるなよ」と声をかけられましたが、これって最近聞きませんね。今はもう死語なのかな。でも今は、若い人を育成する側に対して「(若い人を)小さくまとめるなよ」と声をかけるべきなのかもしれません。

 

それと、新任管理職の皆さんも「管理職初心者」ですよね。ということは、ご自身も試行錯誤して失敗していいんですよ。自分なりに考えて、部下を育成しようとしたものの、なかなかうまくいかない。これ、管理職だったら必ず経験しています。部下の育成は、実に「おもつらい」仕事です。周囲の人に協力してもらいながら、試行錯誤を続けてくださいね。

 

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」。これは、山本五十六の有名な言葉です。この言葉には、続きがあるのをご存知でしょうか?それは、

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」

「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」

というものです。

 

この、「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば」というのは、まさに私が提唱している「聞くことを主軸とした対話」そのものです。さらに、感謝で見守って、信頼してあげる。ここまでやらないとダメなんですね。いつの時代も、人材育成は大変なんです。

 

「やってみせ、言って聞かせて…」の部分だけを取り上げているのでは、山本五十六に「おいおい、話を最後まで聞けよ」と言われてしまいそうです(笑)。

 

繰り返しになりますが、現代は「不寛容な社会」になりつつあると思います。そして、何か問題が起こるたびにガイドラインが策定され、がんじがらめの中でビジネスを展開しなければならない。次回は、こうした中でどのように動いていけばよいのか考察していきます。