column7 「答えやすい質問」と「答えにくい質問」の違い

 話を聞き出すには、相手に質問を投げかける必要があります。その際、相手が「答えやすい質問」と「答えにくい質問」があります。今回は、その違いについてお話しします。

 

 このコラムの第3回「聞き出すって意外と難しい」の中で、「『話しにくい』には、大きく分けて二つの方向性がある」とお伝えしました。一つは「ストレスレベルが高い(内緒にしておきたい)方向」、そしてもう一つは「表現の難易度が高い(モヤモヤしている)方向」です。

 

 「ストレスレベルが高い方向」の質問が答えにくいのは、当然と言えば当然ですね。例えば、「恥ずかしいこと」は最も内緒にしておきたいことです。ですから、初対面の人に、いきなり「過去の恥ずかしい経験は?」などと質問するのは不適切(というより非常識)です。同様に、プライベートの細かいことについて、いきなり質問するのも適切ではありません。これらについては、すぐにご理解いただけると思います。

 

「モヤモヤしていること」は答えにくい

  問題は、もう一方の「表現の難易度が高い(モヤモヤしている)方向」です。ほとんどの人は、こちらの方向が答えにくいという認識を持っていません。

 

 例えば、いきなり「あなたはどんな人ですか?」と聞かれたとします。さあ、どのように答えますか?意外と難しいですよね。自分のことはよくわかっているけど、「自分はこんな人です」と表現するのは難しいものです。同様に、「あなたの勤務先はどんな会社ですか?」「どんな仕事をしていますか?」「どんな街に住んでいますか?」というのも、答えるのが難しいと思います。

 

 私が研修の時によく使う設問に、「娘がいきなり『ある人と結婚したい』と言い出したとしましょう。当然、相手はどんな人か知りたいですよね。では、どのように聞き出せばよいでしょうか?」というものがあります。こういう時、「相手はどんなヤツだ?」と聞くだけでは、「う~ん、いい人よ」などの抽象的な答えしか返ってこないものです。皆さんだったら、どう聞き出しますか?

 

「思い出せば、答えられる質問」「考えなければ、答えられない質問」

 実は、質問には「思い出せば、答えられる質問」と「考えなければ、答えられない質問」があります。「どんな人?」という質問は「考えなければ、答えられない質問」です。こうした質問を投げかけるだけだと、相手はうまく答えることができません。以前にもお伝えしたように、人は質問に答えようといつも準備しているわけではありません。言わば、「準備不足」の状態にあります。そのため、「考えなければ、答えられない質問」に答えてもらうためには、相手が答えられるようにサポートする必要があるわけです。

 

 そのサポートとは、「相手の頭の中に、考える材料を並べること」です。そのために、いくつか「思い出せば、答えられる質問」を投げかけます。例えば、娘さんの彼氏がどんな人か聞きたければ、まずは「彼氏とつき合い始めたのは、いつ頃から?」「きっかけは?」などと質問してみましょう。これらは、「思い出せば、答えられる質問」です。こうした質問であれば、「う~ん、二年前くらいかな」「友達の紹介で知り合った」などと答えてくれるはずです。

 

 こうした「思い出せば、答えられる質問」に答えていくと、彼氏についていろいろ思い出してきて、頭の中に考える材料が並んでいきます。そういう状態になってから、「そうすると、彼氏はこんな感じの人なのかな?」と踏み込んで聞いていきます。こうすれば、娘さんのほうも「そうねえ、でもこんなところもあって…」と具体的に答えてくれるようになります。

 

部下が喜んで着いてくる誘い方

 私たちが聞きたいことの多くは、「どんな・なんで・どうして・どうやって」などの「考えなければ、答えられない質問」です。ほとんどの人は、「相手の中に明確な答えがあるはずだ」と安易に考えているので、こうした質問をドーン!と投げかけてしまいます。しかし、相手は自分の中で答えがまとまっていないので、モゴモゴしてしまいます。そして私たちは、そうしたモゴモゴを見て、「なんで答えようとしないんだ!」とイライラしてしまうのです。

 

 例えば、上司が部下を食事に誘う場面を考えてみましょう。「今晩、食事に行こうか?おごってやるよ、どんなものが食べたい?」と聞いたとします。ちなみに、「どんなものが食べたいか」という未来に関する質問は「考えなければ、答えられない質問」です。だから、部下はモゴモゴしてしまいます。すると、上司はイライラして、「何かしらあるだろ、食べたいものくらい!ハッキリしろよ!」と怒ってしまう。私が部下だったら、こんな上司に誘われたくありません(笑)。

 

 では、どうすればよいのでしょうか?このように部下がモゴモゴしていたら、ニッコリしながら「しょうがないなあ。朝は何を食べたんだ?」とやさしく聞いてみましょう。 「えーっと、朝はパンでした」「じゃあ、昼は?」「ラーメンでした」「何ラーメン?」「とんこつです」「そうかあ、炭水化物と脂ばかりだなあ…(笑)」 こうした会話をすることで、部下の頭の中には「晩ごはんに何を食べたいか」ということを考える材料が並んでいきます。

 

 上司としても、部下の日頃の食生活を聞いて、「野菜が足りないんじゃないの?」などと気遣うことができます。そうして、「じゃあ、こだわりの有機野菜を使っているお店があるから、行ってみるかい?」などと誘ってあげれば、部下は喜んで着いていくことでしょう。

 

 同様に、「誕生日プレゼント、何がほしい?」というのも「考えなければ、答えられない質問」です。だから、「う~ん、何でもいいよ」といった答えが返ってきたりします。こういう時にも、「去年のプレゼント」や「最近ハマっていること」などについて会話をして、相手の頭の中に考える材料を並べてあげましょう。そうしてから、「じゃあ、今年の誕生日プレゼントは何にしようか?」と聞いていけば、もっと具体的な答えが返ってくるはずです。

 

「質問」も引き出すことができる

 講演などの最後に質疑応答の時間がありますが、司会者が「質問はありませんか?」と問いかけても手を挙げる人って少ないですよね。これは、「質問はありませんか?」というのが「考えなければ、答えられない質問」だからです。そこで、私が講演をする時には、事前に「今日のお話を聞いて、ご自身で何か思い当たることはありましたか?」と問いかけるようにしています。そうして、参加者の頭の中に質問を考える材料を並べてから「質問はありませんか?」と問いかけると、パラパラと手が挙がります。言わば、「質問を引き出すための準備」をしているわけです。

 

 私の講演は、通常「講演90分+質疑応答30分」という時間配分になっています。そうすると、主催者のほうから「質疑応答の時間を30分もとって大丈夫ですか?」と心配されることがあります。でも、私は質問を引き出すことができるので、何も心配は要りません。ほとんどの場合、30分では足りないくらいに質疑応答が盛り上がります。ちなみに、質疑応答をする時間的余裕がない場合は、「質問はありませんか?ありませんね。じゃあ、これで今日は終わりにしまーす」というかたちで終わらせてしまいます(笑)。

 

「オープンクエスチョン」「クローズドクエスチョン」との比較

  コーチングを学んだ方は、「オープンクエスチョン」「クローズドクエスチョン」という言葉をご存知だと思います。オープンクエスチョンは「どう思う?」などの回答に制限がない質問で、クローズドクエスチョンは「YES・NO」などの限定的な回答を求めるものです。少々乱暴な位置づけですが、「オープンクエスチョン≒考えなければ、答えられない質問」「クローズドクエスチョン≒思い出せば、答えられる質問」という感じになります。

 

 一般に、コーチングではオープンクエスチョンでアプローチすることを推奨しています。この考え方は、幼い頃から自分の意見を述べ慣れているアメリカの知識層を相手にする場合には適切です。しかし、モゴモゴしがちな日本人を相手にする場合は一考を要します。私は「思い出せば、答えられる質問 ⇒ 考えなければ、答えられない質問」というアプローチのほうが、日本人に適していると考えています。コーチングは素晴らしいメソッドですが、やはり文化的に違う部分も考慮して取り入れるべきだと思います。

 

今日のお話をまとめると、

●質問には「思い出せば、答えられる質問」と「考えなければ、答えられない質問」がある。

●こちらの聞きたいことは「考えなければ、答えられない質問」であることが多い。

●しかし、準備不足の相手に、いきなり「考えなければ、答えられない質問」を投げかけてしまうと、うまく答えてくれないことがある。

●そのような場合、「思い出せば、答えられる質問」をいくつか投げかけて、相手の頭の中に考える材料を並べさせてから、こちらの聞きたいことを問いかけていくとよい。

ということになります。

 

 今回は、聞き出すのに大切な要素の一つである「質問」についてお話ししました。次回は、もう一つの要素である「傾聴」についてご説明したいと思います。