column8 「傾聴する」とは?

 私は赤ちゃんが大好きです。電車の中で見かけたりすると、つい微笑みかけてしまいます。そうすると、赤ちゃんのほうもニッコリと笑ってくれることがあります。そんな時は、もう嬉しくなってしまって、もっともっとあやしてあげたくなります。「我ながら単純だなあ…」と思いますが、赤ちゃんのちょっとした笑顔に大きな影響を受けているわけです。

 

 人間は、自分の行動に対して周囲から反応があると、張り合いを感じて頑張ろうとします。逆に、周囲からの反応がないと、いくら意志の強い人でも頑張り続けることができません。以前、Jリーグで「無観客試合」が行われたことがありましたが、試合はまったく盛り上がらず、結果はドローになりました。「サポーター」という名称はまさにその通りで、観衆が自分たちのプレーに反応してくれるから選手は頑張れるわけです。逆に、まったく反応がない環境では、力を発揮することができないわけですね。

 

 会話でも、同じことが言えます。自分の話に聞き手が反応してくれると、つい嬉しくなってしゃべり続けてしまいます。逆に、聞き手が無表情のままで聞いていると、どんなにおしゃべりな人でも話し続けることができません。「傾聴」について考える際には、このことをしっかり認識することが大切です。

 

 カウンセリングやコーチングを行うのと異なり、通常の会話で話を聞き出す程度であれば、それほど細かい傾聴テクニックは必要ありません。それよりも、まず「自分は、話を聞いている時に、ちゃんと反応を示してあげているかな?」と考えてみてください。

 

 私は研修の時に、「皆さんは、自分はちゃんと傾聴していると思いますか?」と問いかけます。そうすると、多くの人が「何となくやっているような気がする」という回答をします。ところが、次に「では、自分はちゃんと反応を示していると思いますか?」と問いかけると、「う~ん、どうかなあ…」という回答が多くなります。

 

 実は、ほとんどの人は、話を聞いてはいるけど、反応を示そうとはしていないのです。「聞いてはいるけど、ボーッと聞いている」という感じですね(笑)。一方、話している側にとっては、相手が自分の話をちゃんと聞いているかどうか、そして理解できているかどうか、とても気になるものです。そのため、多くの会話は「話し手は聞き手をよく見ているのに、聞き手はそのことを認識していない」という状態になっています。

 

 傾聴というと、うなずき方、相槌の打ち方など、すぐに細かいテクニック論に入りがちです。しかし、それよりも前に、「まず相手の話に反応を示して、相手がどんどん話すように励ましてあげることが大切なのだ」ということを、ぜひご理解ください。

 

人間だけに白目があるのはなぜか?

 

 ここで皆さんに質問です。霊長類で、白目があるのは人間だけなのをご存知ですか?チンパンジーやゴリラ、オランウータンには白目がありません。何故でしょうか?

 


 

 白目があると、どこを見ているのか簡単にわかってしまいます。野生生活では、自分の注意の方向を知られてしまうのは大変不便であり、危険でもあります。たとえば、獲物を狙う時、白目があると獲物に狙っていることを悟られてしまいます。また、自分より強い生物に狙われた場合、不意をつかれやすくなります。野生生活を行うにあたっては、白目はないほうが有利なのです。

 

 しかし、人類の祖先は木から降りて地上で集団生活を営むようになりました。集団生活は、複雑なコミュニケーションが必要とされます。言語が発達したのはごく最近ですから、身振り手振りのコミュニケーションをとる時代が長く続きました。「何を、どのようにしてほしい」ということを伝えるには、自分の注意の方向を相手に知ってもらう必要があります。このような時、自分がどこを見ているのか、相手にわかりやすくしたほうが便利です。そこで、コミュニケーションをとりやすくするために、進化の過程で白目ができていったのではないかと言われています。

 

 ですから、「アイコンタクト」は言語が発達する以前から使われているコミュニケーション手段なのです。その割に、アイコンタクトは重要視されていないように思います。「私はあなたの話を興味深く聞いていますよ」という反応を示すためには、やはりアイコンタクトをしっかりとる必要があるわけです。

 

 ただし、アイコンタクトは「相手の目を見続ける」ことではありません。相手に注意を向けることが必要なのであって、目を見続ける必要はないのです。目を見続けるのは、非常に強い愛情か敵意のどちらかを表します。動物園では、ゴリラの目を見ないように注意されます。あれは、ゴリラが敵意を感じて物を投げつけたりすることがあるからです。無理に相手の目を見続けようとせず、相手の顔を見るくらいのイメージでよいと思います。

 

アイコンタクトが苦手な人の特徴

  「アイコンタクトをとるのが苦手だ」という人は多いものです。ちょっとした沈黙があると、すぐに我慢できなくなって、目を伏せたり逸らしたりしてしまう。こういう人が会話している姿を観察してみると、動きが少ないことがわかります。じーっと相手の話を聞いている感じですね。

 

 実際にやってみるとわかりますが、じーっと動かないで相手の話を聞いていると、すぐにアイコンタクトをとるのが辛くなります。逆に、相手の動きに同調しながら身体を揺さぶってみたり、うなずいてみたりすると、視線がそれほど気にならなくなります。アイコンタクトをとるのが苦手な人は、会話の時になるべく身体を動かすように意識してみてください。(とはいえ、あまりユサユサすると落ち着きがない感じになりますので、加減を調整してください)

 

 私は講演する時に、必ず立って話します。これは、受講者の皆さんとしっかりアイコンタクトをとって、理解度に応じて話を進めていきたいからです。こちらが立って動きながら話していると、アイコンタクトをとってもお互いに辛くありません。しかし、座って話すと動きが少なくなるので、アイコンタクトをとろうとすると受講者の皆さんが目を伏せてしまうようになります。それが嫌なので、一日にわたる研修であっても、なるべく座らないで話すようにしています。

 

相槌のレパートリーはどれくらいあるか?

 これから先を読み進める前に、ご自身でどれくらい相槌のレパートリーがあるか書き出してみてください。普段の会話を思い出してみましょう。「うんうん」「なるほど」「えぇ」など、いくつか挙がると思います。いかがでしょうか?

 

 では、書き出した相槌を数えてみましょう。いくつありますか?私はいろいろなところでこの質問をしていますが、5~15個くらい挙がるのが普通です。相槌の数は多ければ多いほどよいです。まずは、15個くらいの相槌を使いこなせるようになりましょう。最終的には、30個くらいの相槌を使いこなせるようになりましょう。

 

 次に、相槌の種類を見てみましょう。相槌は、いろいろな分類方法がありますが、大きく分けて4つあります。

①話の内容を受け止める相槌

 「なるほど」「そうですね」「たしかに」「わかります」「いいですね」など

②同調する相槌

 「はいはい」「うんうん」「そうそう」「えぇえぇ」「へ~え」「ふ~ん」など

③驚き、悲しみ、喜び、疑問など、こちらの受け止め方を伝える相槌

 「すごいね!」「やった!」「え~」「はあ…」「う~ん…」「ありゃりゃ」など

④先を話すようにうながす相槌(やや質問に近い)

 「それで?」「それから?」「とすると?」「それって?」「なになに?」など

 

 皆さんが書き出した相槌は、上記の分類で言うと①②が多いのではないかと思います。というか、③④を相槌として認識していなかった人も多いと思います。③④の相槌がレパートリーに加わると、話し手に反応を示しやすくなりますし、聞きたい話をズルズルと引き出していくのも容易になります。それだけ、話し手をコントロールできるようになるわけです。聞き上手になりたいとお考えの方は、ぜひ③④の相槌を使いこなせるように努力してください。

 

 今回は、傾聴の基本についてお話ししました。次回は、聞き上手だと言われているタレントの人たちが、質問や傾聴のテクニックをどのように使いこなしているか、具体例を挙げながら解説していきたいと思います。