あなたに必要なのは「話す力?」or「話し合う力?」②

シンプルだけど強力な「対話のコツ」(column41)

 

今回から、対話のセオリーについてお話しします。対話とは、「あるテーマについて話し合い、合意を形成する行為」です。では、どうすれば合意が形成されやすくなるのでしょうか。今回は、その「コツ」のところを、具体例をあげながら説明します。

 

対話とは「テーマにそって話がグルグル回るもの」

 前回お話ししたように、対話とは、「あるテーマについて話し合い、合意を形成する行為」です。ビジネスでよく行われている対話のプロセスを図にすると、次のようになります。

 

 

図を見てわかる通り、グルグル回っていますよね。対話は、テーマにそって話がグルグル回っているうちに、合意が形成される(話がまとまる)ものなのです。このことを、ぜひ憶えておいてください。

 

たとえば、病院に行って医師から診察を受けます。これは、医師と患者との間で治療方針について話し合う行為です。これについても、わかりやすいように図にしてみましょう。

 

 

病院に行って医師と会うと、「今日は、どうされましたか?」という問いかけを受けます。そして、患者は「頭が痛い」などの自覚症状について説明する。それを聞きながら、医師は熱を測ったり触診したりします。そうして得られた情報をもとに、医師は「おそらく流行りの風邪でしょう。注射をして、お薬はこれとこれを出しておきます。部屋を暖かくして、ゆっくり休んでください」などと治療方針を説明する。それを受けて患者は、「私はこの薬を飲んで胃が痛くなったことがあるんですが…」などと懸念を伝える。それを踏まえて医師は、「じゃあ、念のため胃薬も出しておきましょう。様子を見て、また来てください」などと伝えて、患者は納得して診察料を支払います。これが、対話が回るということです。

 

しかし、医師にもいろんな人がいます。患者が症状を説明しても、あまり耳を貸そうとしない。また、治療方針について懸念があっても、なんだか伝えにくい。話がかみ合わなくて、診てもらった感じがしない。モヤモヤする。そんな経験はありませんか? 患者同士が待合室で、「あの先生は優秀なんだろうけど、ちょっとねぇ…」なんて話している。

 

 

「人柄が悪い」のではなく「対話力がない」

 こうした医師は、「人柄が悪い」と評されがちですが、実際には対話力がないケースが多いのです。対話が一方通行的でかみ合っていないから、患者としては診てもらった実感が湧かないのですね。

 

よく「病を診て、人を見ない」と言われます。「医師の役割は病気を治すことだ」と考えれば、治療する能力さえ高ければ対話力など要らないのかもしれません。しかし、患者は機械ではなく人間ですから、「修理すればいい」というわけではありません。

 

ここで、「医師の役割」と言いましたが、「医師としての専門性」は高くても、「医師としての役割認識」がしっかりしていない人がいます。「専門性」と「役割認識」。この両者と対話力のかけ合わせによって、ビジネスパーソンとしての価値が提供できる(パフォーマンスが発揮できる)と私は考えています。

 

 

医師は、医療に関する専門性をもっています。だから、患者の状態を見て診断することができる。専門性は、何よりも大切です。しかし、医師が自分の専門性を高めることばかり意識していて、「医師としての役割」について深く考えていなかったらどうなるでしょうか。

 

残念なことに、いくら専門性を高めても、すべての病気が治せるわけではありません。最近は高齢化が進んでいるため、加齢による「なかなか治らない疾病」が増えています。このような時、その医師の役割認識によって、ずいぶんと対応が変わってきます。病気ばかり診て患者を見ていない医師は、「トシだからねぇ。なかなか治りませんよ」などとバッサリ言ってしまう。そうすると、患者としては希望がもてず、見捨てられたような感じがします。

 

一方で、「地域に根差した医療を」という理念を掲げ、「近隣の皆さんが健康的な生活を送れるように支援する」という役割認識をもった医師もいます。なかなか治らないことに嫌気がさしているお年寄りの気持ちを、しっかり受け止めてあげる。それを踏まえて、「気長に、すぐ治そうと焦らないで」と声をかける。しかし患者は素直に聞かず、「焦るなって言われても、痛いものは痛いからね!」なんて言い返す。それを踏まえて、「少し痛み止めを増やしますか? でも、あまり増やすとねぇ…。どうしましょう? 」などと受け答えする。

 

人間とは不思議なもので、こうしたやり取りで少しでも通じ合えると、それだけで気持ちが和らいできます。そうして、「まあ先生がそう言うんなら、もうちょっとこの病気につき合ってやろうかね。孫にも『じいちゃん頑張って』って言われてるし…。そう言ってもらえるうちは頑張るかな!」などと言って診察が終わります。

 

こうした対応は、「医師としての専門性」ではなく、「医師としての役割認識」と対話力によって生まれます。この場合は、「健康的な生活を送れるように支援する」という考えのもとに、「すぐには治らない。では、どういう姿勢でこの病気に向き合えば良いのか」ということをテーマにして、医師が対話を回したわけです。その結果、「周囲の人の応援を励みに病気とつき合ってみよう」ということに落ち着きました。

 

先ほどの「風邪の診断」では、医師の側が明確な解決策をもっていました。こういう場合は、解決策を伝えれば合意が形成できるので、それほど高い対話力は必要ありません。しかし、「すぐには治らない。では、どういう姿勢でこの病気に向き合えば良いのか」という場合は、医師の側に明確な解決策があるわけではなく、患者側の生きる姿勢や考え方による部分が大きい。このような時に、対話力が要求されるわけです。

 

ここまで、イメージしやすいので医師の話をしましたが、こうした状況は、現代の多くの職場で起きています。昔は、上司の立場が強く、かつ上司が明確な解決策をもっていました。だから、指示・命令・指導することが大切でした。しかし、現代は上司よりも部下のほうが技術に詳しくて、上司が明確な解決策をもっていないことがよくあります。このような場合にも、やはり対話力が必要です。

 

 

対話を回すコツは「踏まえる」「考えさせる」

多くの人は、対話の時に「回す」という意識がなく、「自分の頭の中にあるものを言語化して相手に投げかける」ことに一生懸命になっています。こうした状態で対話すると、一方通行的になります。自分の立場が強い場合、相手は不満を抱えながら押し黙ります。相手が自分と同じくらいの立場の場合、「話し合い」ではなく「言い合い」になってしまいます。

    

対話の際には、「回すこと」を意識する。そのためには、「話すこと」ばかり考えず、「相手の話を踏まえる」「相手に考えさせる」ことにも意識を向けることです。これが、シンプルだけど力強い「対話のコツ」です。 

 

 

こうしたコツを習得するには、どうしても演習が必要です。実際に演習すると、「踏まえる」「考えさせる」ことで話がグルグル回るのが実感できます。こればかりは、eラーニングなどで教えられるものではありません。とはいえ演習しなくても、「そこが対話のコツであり、注力するべきポイントである」とわかるだけで、ずいぶん違うと思います。

 

次回以降は、「相手に考えさせる(考えを述べさせる)」ために必要なノウハウについてお話しします。

 

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