あなたに必要なのは「話す力?」or「話し合う力?」③

取り調べでも使われる「話させるコツ」

前回のコラムで、対話を回すには「相手の話を踏まえる+相手に考えさせる」ことが大切だとお話ししました。「相手の話を踏まえる」のは自分ですから、そう意識するだけで効果が得られます。しかし、「相手に考えさせる(そして、それを話してもらう)」にはノウハウが必要です。そこで、回をわけて詳しく説明します。今回は、「相手に考えを話してもらう」ことについて話します。

  

本当に部下は「何も考えていない」のかな?

「最近の若いヤツは何も考えていない!」と嘆く管理職の方がいます。「『どう思う?』と問いかけてみても、何も答えようとしない。まったく今の若いヤツらは…」。

 

しかし、では、今の若い人たちは本当に「何も考えていない」のでしょうか。私は、そんなことはないと思っています。それよりも、「どう思う?」と聞かれて、迂闊なことを言うと怒られたりするから、上司が次に何か言うのをじっと待っているのではないでしょうか。すなわち、「何も考えていない」のではなく、「考えていることを話そうとしない」わけですね。

 

考えを述べさせるのに大切な2つのこと

このような場合、とるべき行動は大きく分けて2つあります。まず、相手の「防衛本能」に配慮すること。その次に、相手に「話したい!」という気持ちにさせることです。

 

防衛本能に配慮するのは、想像以上に大切です。一般に、初対面の人には警戒されないように気をつけるものの、身近な人に対しては配慮を忘れがちなんですね。これは、特に奇策があるわけではなく、常日頃から地道に信頼関係を築いておくしかありません。特に、「感情の起伏を露わにする」などの「極端な行動」に気をつけましょう。

 

車の運転をする時に、「急ハンドル・急発進・急ブレーキはNG」と言いますよね。同じように、人と接する時も「急はNG」です。これは、「急に怒る」だけでなく、「急にほめる」とか、「急に真顔になる」なども控えたほうがいいでしょう。

 

ただ、この「急はNG」を誤解する人が多いんですよね。必要な時には怒っていいんです。優しくしていいし、真剣になるのもいい。ただ、なるべく急を控えること。それだけで、じゅうぶん相手の防衛本能に配慮することになります。

 

取り調べでも使われる「話させるコツ」

 次に、相手に「話したい!」という気持ちにさせる。防衛本能に配慮するのは「ブレーキを解除する」。こちらは、「アクセルを踏み込む」というイメージですね。人間には、「自己開示意欲」というものがあります。自分のことを理解してほしい。ヘンに誤解されたくない。自分が抱え込んでいることを打ち明けたい。こういう欲求が、多かれ少なかれ誰にでもあるものです。この自己開示意欲を刺激すると、相手は話したい気持ちになってくれます。

 

自己開示意欲を刺激するには、「部分的共感」を示すことがお勧めです。警察の取り調べなどでも、この部分的共感が使われているそうです。

  

  

たとえば、傷害事件で逮捕された容疑者を取り調べているとしましょう。情報を集めてみると、どうやら容疑者は被害者に以前から嫌がらせを受けていたらしい。だからといって、相手に暴力をふるってしまうのは、決して許されることではありません。容疑者が犯した行為に「全面的な共感」はできません。

 

しかし、嫌がらせを受けて頭にくること自体は、当然の話ですよね。この部分には共感できる。そこで、「あぁ、そんなヒドイことをされたのか。そりゃあ、頭にくるだろうねぇ…」と共感を示す。これは、「その部分に対しての共感」です。そうすると、容疑者は「この取調官はわかってくれる!」と感じます。そして、「もっとわかってもらいたい」という欲求が芽生えてきます。これが、部分的共感の使い方です。

 

この部分的共感を示す行為は、日常のあらゆるシーンで使えます。「全面的共感」ではなく「部分的共感」ですから、難しく考えないことです。自分なりに「いいなぁ…と思うこと」「なるほどねぇ…と感じたこと」を素直に相手に伝えればいいのです。

 

部分的共感は 驚くほど日常で使える

私は、飲食店のオーナーシェフによく部分的共感を示します。店を訪れて、「大きめの椅子で、室内もゆとりがあって心地いいなぁ…」と思ったら、「ゆったりしていて、いいですねぇ…」と漏らします。そうすると、「あ、この人わかってくれる!」と感じるシェフが多いものです。そして、店づくりに対する思いや、料理へのこだわりを話してくれたりします。それを、「うんうん」と聞いてあげると、急速に親しくなっていきます。場合によっては、一品サービスしてくれることもあります(笑)。

 

それから、私は先日広島県の福山市を訪れました。講演に呼んでくださった福山の知人に、「福山、いいところですねぇ…」とお伝えしたら、とても喜んで福山の歴史や地元の経済についてあれこれと教えてくれました。その方は福山のことが大好きなので、「いいところですねぇ…」と言われて、「もっと福山の良さを理解してもらいたい!」という気持ちが芽生えたのですね。

 

正直に言うと、私は福山を訪れたのは初めてで、予備知識も何もありません。新幹線を降りて、知人の会社まで10分ほど歩いただけです。ただ、街並みは整っているし、駅前にお城もあるし、正直に「いいところだなぁ」と思いました。決してウソではありません。とはいえ、10分ほど歩いただけですから、福山のことが全面的にわかったわけではありません。あくまでも「部分的共感」です。

 

特に日本人は、「迂闊なことは言えない」「よく理解してからでないと、感想などは述べられない」と考えがちです。でも、「いいなぁ」と思うことを、素直に伝えることは決して悪い行いではありません。常日頃、「部分的共感を示す」ことを少し意識しておくだけで、いろんな話が聞き出せるようになります。

 

人は「自分の見たいことしか見ようとしない」

ここで、部分的共感を示すのに大切なことをお話ししましょう。それは、「相手に対して興味・関心・問題意識をもつ」ということです。

 

私はこの話をする時に、よく腕時計の例を出します。皆さんは、ご自身が使っている腕時計の文字盤を、詳細に思い出すことはできますか? 大まかなイメージは思い出せるものの、細かいところは憶えていないものですよね。腕時計って毎日見ているはずなのに…。

 

人は、「自分の見たいことしか見ようとしない」のです。「時計を見る」と言いますが、実際には「時計が表しているもの(時刻)」を見ていて、時計そのものは見ていない(興味がない)。だから、いつも見ているのに、時計の文字盤は思い出せないわけです。

 

 これ、残念なことに、時計だけでなく、人に対しても同じことをやっています。たとえば、セールスパーソンは「見込客の購買意欲や予算」に興味があります。でも、そこばかり見ていて、「顧客の課題や困っていること」に目がいかないようだと、そのセールスパーソンはよいサービスが提供できません。

 

上司は、「部下が成果を上げるかどうか」。受験生をもつ親は、「子供が勉強しているかどうか」。しかし、そればかり見ようとすると、「部下そのもの」「子供そのもの」が見えなくなってしまう…。

 

人と接する時には、自分が見たいところばかり見ようとせず、相手そのものを見ようと意識しましょう。すなわち、「相手に対して興味・関心・問題意識をもつ」ことです。前回のコラムで、「病を診て、人を見ない医師」の例をあげましたね。実は、医師だけでなく、私たち自身も同じことをやってしまっているわけです。

 

相手そのものをよく見てあげると、いろんなことに気づきます。そうして気づいたことで、「いいなぁ」と思うことを素直に部分的共感として伝えればよいわけです。

 

今回は、「考えを述べさせるノウハウ」についてお話ししました。次回は、「相手に考えさせるノウハウ」についてお話しします。