あなたに必要なのは「話す力?」or「話し合う力?」④

テレワークがうまくいかず タバコ部屋で話が進みやすい理由(column43)

前回のコラムで、相手に「考えを述べさせるノウハウ」をお話ししました。今回は、実際に「相手に考えさせるノウハウ」についてご紹介します。相手に考えさせるには、問題をかみ砕いて分解し、「これについて考えてください」という主旨を明確にする必要があります。これをせずに、そのまま渡す行為を「丸投げ」と言います。

  

考えさせるには順番がある

最初にご理解いただきたいのが、「相手に考えさせるには順番がある」ということです。たとえば、B to Bのビジネスで、新規取引先に自社商品の採用について検討してもらうことをイメージしてみましょう。この際に、いきなり商品の採用について考えてもらうのはナンセンスですよね。よほど買い求めやすい商品であれば別ですが、普通はそれなりのステップを踏むはずです。

 

ここで大切なのが、「小さな判断(合意)から大きな判断(合意)につなげる」ということです。これ、当たり前のようですが、非常に大切なことなので、再認識しておいてください。何事においても、初めから大きな判断を迫るのは難しい。

 

B to Bの営業活動では、まずは訪問やテレビ会議のアポイントをとることから始めます。次に、サンプルを見てほしい、上司を引き合わせたい、工場に来て製造現場を見てほしいなど、徐々に大きな判断をさせていって、最終的に商品の採用という判断に至ります。

     

 

人を動かす手法に、「合意取り」というものがあります。誰かに協力してもらいたい。その際に、いきなり大きなお願いをするのは難しい。そこで、小さな合意を取りつけることから徐々に合意を取っていくわけです。

 

タバコ部屋で打合せが進みやすい理由

2~30年ほど前まで、企業の会議室や応接室は喫煙できるのが当たり前でした。相手がタバコを取り出して「いいですか?」なんてやると、「どうぞ」と言いながらこちらもタバコを取り出す。時には、タバコを一本もらったり、火をつけてあげたりする。そうすると、その後の話し合いが円滑になります。これは、小さな合意のやり取りをしたために、その後の合意形成がスムーズになったのです。「タバコ部屋で打ち合わせすると話が進みやすい」と言われるのは、それなりに理由があるのですね。

 

私はタバコを吸いませんし、決して喫煙を奨励しているわけではありません。しかし、現代はこうしたやり取りが少なくなったために、ビジネスが進みづらくなった面はあると思います。

 

たとえば、「おはよう」「おはようございます」という挨拶も、お互いの存在を認め合っているという意味で一つの合意です。社内調整が上手い人は、常日頃から関係各所との小さな合意を取り続けています。日頃そういう努力をしないで、何かあった時にいきなり合意を取りつけようとしても、なかなかうまくいくはずがありません。

 

部下に考えさせる場合も、「小さな判断から大きな判断につなげる」ことを意識してみましょう。若手で経験の少ない部下の場合は、「A? or B?」といった小さなことから判断させる。そうして、徐々に大きな判断をさせる。経験豊富な部下の場合、細かいことは省いてしまって大きな判断をさせる。

 

相手に考えさせるには「問題をかみ砕く」

 ここまでのお話で、相手に考えさせるには、「問題をかみ砕いて分解する必要がある」のに気づかれたと思います。

 

若く経験が浅い部下に考えさせる場合は、問題を細かくかみ砕く。一方、経験豊富な部下の場合は、大きくざっくりと。顧客に商品を検討してもらう場合もそうですし、他部署に協力を仰ぐ際にも、問題をかみ砕いた上で「これについて考えてほしい」と示す必要があります。

 

相手に考えさせるには、こちらで問題を分解する必要がある。こう言うと、当たり前のように思えますが、意外とやっていない人多いのではないでしょうか。逆に、こちらで問題をかみ砕かずに、そのまま相手に渡す行為を「丸投げ」と言います。これ、意外とやっている人多いのではないでしょうか(笑)。

問題を分解したら主旨を明確にする

問題を分解したら、「これについて考えてほしい」という主旨を明確にします。この「主旨を明確にする」という行為が、また難しいんですよね。日本人は、とくに苦手なように思います。そのため、日本の会議は主旨が不明確なままダラダラと伝達して終わるものが多いのです。

 

テレワークがうまくいかないのも、この「主旨の不明確さ」が大きく影響しています。何について考えてほしいのか。合意を得たいのか。それが明確にできないから、テレワークがうまくいかない。主旨が不明確なままでも、同じ空間にいれば、日本人特有の「空気を読む」ことによって、なんとなくわかってもらえる。これが「これまでの日本の仕事の進め方」だったのですね。コロナウイルス騒動で、こうした仕事の進め方が変わるかもしれません。

 

問題をかみ砕いて主旨を明確にする力を養うには、「質問力」「ロジカルシンキング」について学ぶことをお勧めします。ただ、これらに関する著作を読むと、「良い質問をすれば、相手は考え始める」と書いてあることが多いのですが、残念ながら現実は違います。相手に考えさせるには、良い質問をすると共に、対話を回す必要があります。

 

主旨を明確にしたら対話を回そう

このコラムの2回目で「対話は回すものだ」とお伝えしましたね。相手に考えさせる場合にも、対話を回すことが必要です。

 

まずは、前回ご説明した働きかけ(ブレーキを解除して、アクセルを踏み込む)を行った上で、考えてほしい主旨を伝えます。相手がOKしたら、感謝を伝えた上で、最初の問いかけを行う。その答えを得たら、それについての反応を示した上で、次の問いかけを行う。相手に考えさせるには、良い質問をするだけでなく、このように対話をグルグル回すことが大切なのです。

 

「意図的に待つ」「反応を示す」

 この際に、「意図的に待つ」ことが必要です。相手に問いかけをして、こちらが待っていると、相手は答えようと頑張るものです。これを、うまく利用する。少し使ってみると、「問いかけをして、意図的に待つ」というのは、相手に考えさせるのに有益であることがわかると思います。

 

この「意図的に待つ」というのは、社会的責任の大きな人(いわゆる「偉い人」)に対して非常に有効です。目上の人に対して「問いかけて、黙って待つ」なんて、ちょっと怖い感じがしますよね。でも、社会的責任の大きな人は、問いかけられると自分なりの考えを述べることに意識が向くため、それほど失礼だとは感じないものです。

 

その際に気をつけたいのが、相手が不機嫌そうな表情をしてもひるまないことです。人は、考えている時に「う~ん…」という顔になります。これは一見するとムッとした感じに見えます。これに、ひるんでしまう人が多い。ここを乗り越えられるかどうかが、対話の巧拙の大きな分かれ目になります。

 

それから、相手が少しでも話し始めたら「反応を示す」こと。「うんうん」「ほほう」「なるほど」「おっしゃる通りですね」など、興味深そうにしながら相槌を打つ。日本人は、「わざとらしい」ことを極端に嫌う傾向があります。そのため、反応せずに押し黙って聞く人が多いのですが、実際には少しオーバーなくらい反応を示していいのです。

 

 

問題をかみ砕いて主旨を明確にし、対話を回すことで相手に考えさせる。当たり前のように思うかもしれませんが、実際にやってみるとベテランの方でも難しいことに気づきます。そこで、セオリーを学んで練習してみると、少しずつスムーズにできるようになります。そうすると、対話することが楽しくなっていきます。

 

これまで、対話のセオリーの中から「ノウハウをひとつまみ」してご紹介してきました。もう少し具体的な話もしたいので、次回以降は「よくある場面」を例にあげながら説明していきます。