あなたに必要なのは「話す力?」or「話し合う力?」⑤

「なんでわかってくれないの?」をなくす方法(column44)

緊急事態宣言が出て、巣ごもり生活が続いています。先行きも不安だし、いろいろとストレスがたまりますよね。そうすると、どうしても出てくるのが「人間関係のいざこざ」です。「なんで、どうして、この人はわかってくれないのだろう?」。 このような時、人はどうしても「どう話したら、うまく伝わるだろう?」と考えがちです。しかし、大切なのは、「話すこと・伝えること」ではありません。「話し合うこと・対話すること」です。今回は、こうした話の 身近な例をあげていきます。

 

思春期のお子さんとのエピソード

つい先日、対話力強化講座を受講された方からメールをいただきました。

 

その方は お子さんが3人いらっしゃるのですが、中学生の長女が「友達とカラオケに行きたい」と言い出したそうです。

 

この状況下です。「カラオケは、集団感染が起こりやすい」とハッキリ指摘されています。当然、親としては、「いったい何を考えているんだ!」という気持ちになりますよね。

 

でも、お嬢さんの立場からすると、「学校も長い休みが続いているし、久しぶりに友達と会いたい」「せっかく誘われたんだし、できれば断りたくない」「毎日弟や妹の面倒を見ていて、たまには息抜きしたい」という思いがあったようです。

 

こういう時、親は「どうやって言い聞かそうか」と考えがちです。でも、結局うまくできなくて、頭ごなしに「やめなさい!」と言ってしまう。思春期の難しいお子さんにこれをやると、激しく反発されてしまいます。

 

とはいえ、何でもかんでも「うんうん」と聞いていたら、「単なる甘い親」になってしまいます。これはこれで問題ですよね。

 

その受講者の方は、講座で学んだことを思い出して、娘さんとこのような対話をなさったそうです。

「いつも、きょうだいの面倒を見てくれてありがとうね」

「お友達に誘われたら、行きたくなっちゃうよね」

 

「でも、『どうして、いま学校が休みになっているのか?』っていうのを、少し考えて欲しいな」

 

「もし、自分がかかったら?」

「それを、他の家族にもうつしてしまったら?」

 

すると、お嬢さんはしばらく考えたのちに、「やっぱり、断る」と言ってきたそうです。

「カラオケに出かけてしまったら、自分も保菌者になるかもしれない」

「そうしたら、大好きなおばあちゃんに、会えなくなってしまう」

そんなことを考えたと。

 

いい親御さんだし、いいお嬢さんですね。メールをいただいて、私はホカホカと暖かい気持ちになりました。

 

この連載の2回目で、「多くの人は、自分の頭の中にあるものを言語化して 相手に投げかけることに一生懸命になっている」とお話ししました。これだと、言い合いになりやすい。そうではなく、対話の際には「話すこと」ばかり考えず、「回すこと」を意識する。回すためには、「相手に考えさせる」「相手の話を踏まえる」ことが大切なのです。

 

がん患者を診ている お医者さんのエピソード

昨年、お世話になった先輩が、肺がんで亡くなりました。まだ60歳になったばかりで、本当に残念でなりません。とても優しい方で、私が入院先にお見舞いにいくと、「辻口さんの仕事の参考になれば…」と言って、病院での対話に関するエピソードを聞かせてくださいました。

 

そこは大きな病院で、患者には複数の担当医がつきます。先生たちを見比べていると、対話力の有無がわかって面白いとのこと。

 

その方は、とても夫婦仲が良いのですが、初めのうち奥様は担当医に治療方針について細かく質問していました。ご主人ががんになったので、一生懸命に勉強なさったのでしょう。

 

ただ、何度も同じ質問をすることが よくありました。若い担当医は、聞かれる度に誠実に説明してくれるのですが、そのうちに「なんで、この人は わかってくれないのだろう?」という表情になっていきました。

 

ご主人である先輩も、「ちょっと くどいなあ。どうしたんだろう?」と奥様の様子を訝しんでいました。

 

主担当の医師が往診に来た時も、やはり奥様は治療方針に関する質問をぶつけ始めました。穏やかな感じのベテラン女医さんで、患者や家族の方に寄り添う姿勢がみられる。先輩は、「対話力のある人だなあ」と思っていたそうです。

 

その女医さんは、奥様の治療方針への質問に対して、初めのうち一つひとつ答えていました。しかし途中で、やさしくひと言「奥様、ご不安ですよね?」。

 

そうすると、奥様の目から ドッと涙があふれてきたそうです。

 

亡くなった先輩は、喫煙の習慣もなく、がんが発覚した当初は「なんで自分が肺がんになるのだろう?」と戸惑ったと言います。奥様も同じで、「どうしてウチの主人が…」という気持ちが くすぶっていました。夫と自分が置かれている現実が受け止められない。そうした思いから、治療方針について くどいほど確認したくなったのではないか…。

 

女医さんは、奥様の涙を見て、「治療方針を詳しく説明する」のではなく、「事例を中心とした、不安が和らぐようなお話」をしてくださったそうです。それ以後は、奥様の細かい質問がなくなったとのこと。

 

これまでの経験から、女医さんは奥様の不安な気持ちを察したのでしょう。そうして、質問に詳しく答えるのではなく、相手の不安に寄り添うようにしたのだと思われます。

 

みんな 違う風景を見ている

親と思春期の子ども。医者と患者の家族。私たちは、「同じ場所にいて、同じものを見ながら、実は『違う風景』を見て会話している」のですね。同じものを見ているけど、その背景が異なるわけです。「なんで、どうしてわかってくれないのだろう?」という思いが発生する原因は、ここにあります。

 

 「なんで、どうしてわかってくれないのだろう?」と思うことがあったら、「相手は、自分と同じ風景を見ているとは限らない」ということを思い出しましょう。そして、「どんな風景を見ているのだろう?」と想像してみましょう。

 

もちろん、相手が見ている風景をまったく同じ視点で見ることはできません。経験も立場も違う者同士ですから、当然ズレが発生するものです。しかし、「同じ風景を見ようとする」ことによって、相手はこちらの話を受け入れやすくなります。

 

たとえば、私がある若いビジネスパーソンの方に対して、何かアドバイスしようとする。その際に、いくらわかりやすく「こうしたほうがいいですよ」と言ったとしても、相手の人は「ウルサイな。オジサンに何がわかるんだ!」と思うことでしょう。

 

そうではなく、まず私が「今の若い人が見ている風景って、どんなものだろう?」「この人は、どんな風景を見ているのかな?」と理解しようとする。いくら私が頑張っても、年の離れた人とまったく同じ視点をもつことはできません。しかし、同じ風景を見ようとすることで、相手の気持ちに こちらの話を受け入れる余地が生まれてきます。

 

その上で、「なるほどね~。こんな風景を見ているんだ。でもね、オジサンの視点からすると、こう見えるよ」と指摘してあげる。そうすると、相手は「ああ、そういう見方もあるのかな」と感じてくれます。

  

  

くり返しになりますが、対話の際には話すこと・伝えることばかり考えず、対話を回すことを意識しましょう。その際に、相手が見ている風景と自分が見ている風景は違うことをわきまえる。そうして、グルグルと対話を回していくと、だんだんとわかり合えてくる。なんとなく、同じ風景を見ながら会話しているような感じになります。これが、「なんで、わかってくれないの?」をなくす方法です。

 

 

今回は、身近なプライベートの事例をあげてみました。次回以降は、ビジネスの事例を取りあげていきます。