短時間で協力者をどう募るか~対話型のプレゼン(column50)
PTAの委員や、マンション管理組合の役員など、「誰かがやらなきゃいけないけど、できれば皆やりたくない」という役割があります。こういう役割に自ら立候補してくれる人を、短時間の間にどう募るか。それには、「対話型のプレゼン」が有効です。今回は、「中学校のPTA委員をどう募るか」というお題で、具体的にお話ししたいと思います。
お題:「PTAへの立候補」を どのように募るか
PTAの委員や、マンション管理組合の役員など、「誰かがやらなきゃいけないけど、できれば皆やりたくない」という役割があります。一応立候補者を募るけど、誰も手を上げない。最後は、ジャンケンかクジ引き。あるいは、毎年同じ人が続けることになる。
でも、よくよく話を聞いてみると、中には「積極的にやりたいわけではないけど、多少はお手伝いしてもいいかな」という人がいるものです。ところが、こういう人が、その場になると手を上げてくれない。ジャンケンやクジ引きで、その人に当たればいいけど、こればかりは運ですからね。「本当に、絶対に、やりたくな~い!」という人に回ってくることもある。そうなると、ちょっと可哀想ですよね。
特にPTAの場合、短時間で意思決定してもらわなければならない。よくあるのが、新入生の保護者がオリエンテーションで集まっているところにPTA役員が入ってきてガーッと説明する。それで、立候補者を募るけど、誰も手を上げない。結果として、ジャンケンかくじ引きになる…。
対話型のプレゼン
これ、「対話型のプレゼン」を行うことで解決できます。全体に向かって話す感じではなく、反応を示してくれた人により深く語りかけるようにします。
ここでは、まず以下のことを理解してください。
初対面の人に説明を行って、立候補などの具体的な行動をとってもらうまでには、 以下の4つのハードルを乗り越える必要があります。
①不信 この人と、この人が説明しているものは、信用できるのかな?
②不要 信用できるのはわかるけど、これが自分にとって必要なのかな?
③不適 必要なのはわかるけど、これが数ある選択肢の中で最適なのかな?
④不急 最適なのはわかるけど、これを今決めなくてはいけないのかな?
これら4つのハードルを乗り越えた後に、
⑤行動を促す 具体的にどういうアクションをすればいいのかを示す
という行為を行うと、スムーズに意思決定を促すことができます。
これを、「PTAの委員を募集する」というステップにあてはめて考えてみましょう。
あなたは子供が通っている中学校のPTA役員です。これから新入生の親御さんたちが集まっている教室に出向いて、10分くらい時間をもらって委員の立候補者を募らなければなりません。残念なことに、親御さんたちに知り合いはおらず、事前に立候補をお願いするような根回しはできませんでした。一発勝負です。
①「不信」のハードルを乗り越える
最初に、自分は何者かを説明します。この場合、自己紹介というより、「自分の子供は中3で、 サッカー部に所属し、好きな教科は体育で、毎日楽しそうに学校に通っています」など、「私も、あなたたちと同じく、この学校に子供を通わせている親なんですよ」ということを述べるといいでしょう。
これは以前にもお話ししましたが、「共通点が見つかると好意が芽生えやすく、警戒心や敵対心が薄れる」という効果を狙ったものです。
②「不要」のハードルを乗り越える
ここでは、PTAに参加することの「意義・大義名分」と「個人的なメリット」の両方を説明します。
たとえば、「子供が楽しそうに学校に通っているので、ご恩返しみたいなつもりでPTAに参加されている方が多いです(意義・大義名分)」。
それと、ここでひとつ問いかけを行います。
「皆さん お子さんが大きくなってきて、『親離れ』を感じませんか?」
このように、説明の中に「問いかけ」を入れるのが、対話型のプレゼンの特徴です。オンラインで説明する際にも、対話型のプレゼンは有効です。
「お子さんは、中学に入ると、親御さんとあまり話さなくなります。それと、小学校と比べて親が参加する行事が少ないので、学校が遠く感じられます。PTAに参加していると、学校の情報がたくさん得られるので、子供との話題に困らなくて済みます(個人的なメリット)」。
③「不適」のハードルを乗り越える
ここまでくると、「積極的にやりたいわけではないけど、多少はお手伝いしてもいいかな」という人の顔が上がり始めます。説明しているこちらを向いてくれる。ここからは、そういう人と対話するつもりで話を進めましょう。
「多少はお手伝いしてもいいかな」と考えている人には、まだ不安があります。
「ウチは共働きだし、PTAは大変そうだから、自分には できないのではないか」
「PTA以外にも、クラブ活動などを通して学校との接点は得られるのではないか」
そんなふうに考える人もいると思います。
そこで、こんな説明をするとよいでしょう。
「今は共働きの親御さんがほとんどで、働いているお母さんや、それからお父さんも参加しています」
「お父さんたちが集まって、『オヤジの会』というのをやっています」
「PTAの皆さんは、熱心でユニークな方が多く、参加していると刺激を受けます」
「PTAは、学校にオーソライズされた組織です。校長先生をはじめとした、様々な先生たちと、親しくお話しができます」
「それほど大変ではない」ということと、「PTAならではの魅力」を、語りかけるように話しましょう。
④「不急」のハードルを乗り越える
ここでは、「今、意思決定しなければいけない」ことを伝えます。
「PTAは、やってみるとやりがいが感じられるものです。そのため、毎年続ける方が多く、 中1の段階で参加しておかないと、空きが出ない限り参加できない」ということを伝えます。
「今、手を上げなければいけませんよ」というわけです。
ただ、これ、強く言ってしまうと反発されますから、あくまでも語りかける感じでやることです。こういう時に、力まずにニコニコッと笑顔で語りかけができるかどうか。これは、ビジネスでもプライベートでも、どこでも通用するスキルの一つです。
⑤行動を促す
上記4つのステップを踏んだ後に、具体的な行動を促します。人間は、どうしていいのかわからないと動けませんからね。「ご協力いただける方は、手を上げてくださいませんか?」と挙手を募ります。
その際に、自分も小さく手を上げるといいです。そうすると、それにつられて手が上がりやすい。あんまり「はーい」という感じで元気よくやらなくていいです。「手を上げていただけませんか?」と言いながら小さく手を上げる。
とはいえ、しばらく誰も手を上げてくれないことが考えられます。つらいですよね。でも、我慢しましょう。ここは我慢のしどころです。
手が上がらないと、すぐに言葉を発したくなります(説明を補足したくなる)。そうすると、緊張が薄まってしまい、行動につながりにくくなります。ここは我慢して、何とも言えない重苦しい雰囲気に耐えましょう。
少しすると、その重苦しい雰囲気に耐えきれず、「多少はお手伝いしてもいいかな」と考えている人が小さく手を上げるものです。そうしたら、すかさずそれを見つけて、「あっ、あちらの方の手が上がりましたね、有難う御座います」とニッコリ感謝します。そうすると、つられて他の人の手も上がり始めます。
「対話型のプレゼン」。このスキル、いろんなところに使えますよ。
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