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「対面とリモートのバランス」について考える

コロナウイルス感染者数の減少が続き、「アフターコロナの時代」を見据えた模索が始まっています。コミュニケーションのあり方についても、様々な議論が行われています。これまでは、感染予防の観点から「なるべくリモートで」という感じでしたが、今後は、対面とリモートのいいとこ取りをすることが重要になります。

 

とはいえ、両者のバランスをとるのは難しいものです。そこで今回は、「ビジネスのコミュニケーションにおいて、どのように対面とリモートのバランスをとるべきか」について、考えてみたいと思います。

 

2つの判断軸

ある人とコミュニケーションをとろうとする場合、対面とリモートのどちらを選択するべきか。そこには、2つの判断軸があります。まずは、「相手に応じて」選択する必要があります。やはり、「どうしてもリモートのコミュニケーションが苦手」という人はいるものです。アレルギーと同じで、こうした人に無理強いするのは得策ではありません。

 

それから、最近では、営業活動や採用面接において、「ファーストコンタクトはリモートで」というのが一般的になりつつあります。そこを無理に「何としても直接お会いしてお話ししたい!」などとやってしまうと、その後は相手に敬遠されてしまいます。これも、無理強いしてはいけませんよね。

 

次に、これが本筋なのですが、「目的に応じて」対面かリモートかを選択することです。

 

リモートでのコミュニケーションは、場所の確保や移動のコストがかかりません。ですから効率を考えれば、「リモートで済むことは、なるべくリモートで行うべき」だと言えます。逆に、リモートに向かないことは、無理せず対面で行うようにします。では、どのようなことがリモートに向いているのでしょうか。

 

簡単に言うと、「テーマが明確」で「内容が言語化・図式化されている」ことはリモートに向いています。たとえば、「大人数が一堂に会して参加する会議」がこれに当たります。現在、大手企業の「大会議室」が続々と閉鎖されているそうです。大会議室に大人数が集まるよりも、オンラインで行ったほうが間違いなく効率的です。少人数や一対一の場合でも、「テーマが明確で、内容が言語化・図式化されている打ち合わせ」はリモートに向いています。

 

リモートに向いていない、無理せず対面で行ったほうが良いのは、その逆になります。すなわち「テーマがハッキリしていない、内容がモヤモヤしている打ち合わせ」ですね。たとえば、営業活動の初期段階などで、顧客が「いろいろ問題があるけど、どれから手をつけようかな…」と考えているタイミングがあります。筆者が携わっている社員教育で言えば、「主任クラスも底上げしたいし、新任管理職もケアしたいし、営業力も強化したい。とはいえ、一度に全部できないしなぁ…。う~ん、どうしようかな…」という感じですね。そこに話し相手として参加できれば、競合に対して大きなアドバンテージが得られます。こうしたモヤモヤしたことを、「あーでもない、こーでもない」と話し合うのは、対面のほうが圧倒的に有利です。

 

それから、もう一つ対面で行ったほうが良いものに、メンバーの「ケア」があります。リモートで、メンバーに対して「大丈夫かい?」と聞けば、「大丈夫です」と答えるに決まっています。しかし、実際に会ってみれば、その雰囲気や顔色から「いやいや、大丈夫そうに見えないんだけど、何かあったの?」と続けることができます。メンバーとしても、上司の顔を見れば、ちょっと相談してみたくなるものです。こうした「ケア」は、やはり会って行うに越したことはありません。

「社会的学習」について

多くの企業が、アフターコロナの時代には、対面でのコミュニケーションをある程度は復活させるべきだと考えています。そこでよく見受けられるのが、「出社させたい経営陣・上司 VS このままリモートワークを続けたい社員たち」という図式ですね。

 

社員の皆さんからすれば、「これまで問題なくやれていたんだから、このままリモートワークを続ければいいじゃないか」というところでしょう。

 

たしかに、それも一理あります。私としても、以前のように「誰もが満員電車に揺られて毎日出社しなければならない」などという状態は、もう必要ないと思っています。しかし、ある程度は出社して、社員同士が対面でコミュニケーションをとるほうが望ましいと考えています。この「ある程度」というのは、もちろん業務・職務によって異なるのですが、そこで考慮に入れていただきたいのが「社会的学習」という概念です。

 

社会的学習というのは、簡単に言うと「人は、実に多くのことを『見様見真似』で学んでいる」ということです。人類は、太古の昔から、「他人がやっていることを観察して、それを取り込む」ということを行ってきました。これは、現代に生きる私たちにも強力にプログラムされており、ほぼ無意識のうちに周囲の人の行動を取り込んでいます。

 

私たちは、ミカンの皮のむき方から、知らない土地での路線バスの乗り方まで、日常生活におけるあらゆることを、教わるのではなく、見様見真似で学び、行っています。長く一緒に住んでいる親子や夫婦が似てくるのも、無意識のうちに行ってしまう社会的学習が影響しています。

 

最近は、親のリモートワークの様子を真似るオモチャが人気だとのこと。ごく幼い頃から、社会的学習は行われているのですね。これは、ある意味では怖いことでもあります。親がだらしない恰好でお菓子を食べながらスマホを見ているのに、子供に正しい姿勢で机に向かって本を読めと言っても通用しないわけです。

 

社会的学習は、オンライン上の行動にも現れます。たとえば、アマゾンなどのレビューにおいて、最初の評価者が下した評価にその後の評価者の多くが引きずられることが知られています。最初の評価者が高評価をつけると、その後も高評価が続きやすい。逆に、最初に低評価をつけられてしまうと、低評価が続いてしまうわけですね。

 

とはいえ、実際に会って一緒に過ごしているほうが、社会的学習の影響は大きいものです。冷静に考えてみると、筆者自身もビジネスシーンにおける多くのことを、教わったというより当時身近にいた先輩の見様見真似で学んだ部分が大きいように思います。

 

チームがチームらしくなる、社風など共通の価値観が生まれるのも、社会的学習が大きく影響しています。ですから、「一緒に何かを行う」「同じ空間で過ごす」ことを大事にしないと、「チームとしての機能」「まとまり」「方向性」が得られにくいということです。

 

コロナ禍に陥る前に、一緒に過ごしていた人たちが、リモートで仕事をする分には問題ないかもしれません。しかし、関係性が築かれていない新しいメンバーでこれからチームを組む場合は、無理せず対面でのコミュニケーションを取り入れていったほうが良いでしょう。メンバーの中に、新入社員などが入っていればなおさらです。

 

アフターコロナの時代においては、ただ何となく出社するのではなく、「一緒に何かを行う」「同じ空間で過ごす」ことを意図的に行い、その効果を得るようにする。そうでない時間は、リモートワークで効率的に作業をこなすなど、効果・効率を考える必要があります。

 

その意味では、これから「オフィスのあり方」が大きく見直されることになるでしょう。これまでは、社員数が増えると共有スペースが減らされる傾向がありました。今後は、むしろ一人でできることはリモートで済ませて、みんなでやるべきことを出社して行う。そのためのワークスペースが充実していることが、オフィスの条件になるかもしれません。

 

繰り返しますが、アフターコロナの時代は、「以前に戻る」のではなく「進化する」べきだと思います。これまでは、「進化=リモート化の推進」でした。これからは、「リモートと対面のいいとこ取り」がポイントです。そこに、「人間は、社会的学習をする(見様見真似で物事を学ぶ)生き物である」という観点を、ぜひ取り入れてください。

 

なお、社会的学習は、こうして話だけ聞いていると面白いのですが、書籍で理論を学ぼうとすると小難しいことが列記されていて参考になる記述を探すのに苦労します。「こういう場合は、どうしたらいいのかな?」という疑問などがありましたら、お気軽にご相談ください。

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参考文献

「事実はなぜ人の意見を変えられないのか~説得力と影響力の心理学」ターリ・シャーロット p181~p208