今回からは、具体的な例を挙げながらノウハウを詳しく説明していきます。サポーティブリスニングの研修をしている時に一番多い質問が「無口な人・気難しい人に、どう対処したらよいか?」です。たしかに、相手に発言してもらわなければ対話は成り立ちません。そのために必要なノウハウをご紹介します。
column15で、「基本的な配慮をする」「興味・関心・問題意識をもつ」ということをお話ししました。これからご紹介するノウハウは、その考え方をベースにしたものです。簡単に復習しておきましょう。
①基本的な配慮をする
●防衛本能に配慮する⇒ブレーキを解除する
●話したい欲求に火をつける⇒アクセルを踏み込む
②興味・関心・問題意識をもつ
●「相手そのもの」に対して、興味・関心・問題意識をもつ
●「聞くという行為」に対して、興味・関心・問題意識をもつ
話しやすい雰囲気を作る
会話の時は、相手の防衛本能に配慮する必要があります。そのためには、話しやすい雰囲気を作ることが欠かせません。とはいえ、「雰囲気を作る」というのは抽象的で難しいものです。
その人の雰囲気は、服装、体型、顔かたちなどの外見のほか、表情、姿勢、態度、しぐさ、声のトーン、息遣いなどの「非言語コミュニケーション」によって作られています(部屋のインテリアなどの外部条件を除く)。これらの項目を個別に掘り下げていったら、それだけで数冊の本ができてしまいます。そこで、簡単で効果的なノウハウを一つご紹介したいと思います。
話しやすい雰囲気を作るコツは、「私はあなたの話に興味があります。詳しく聞かせてください」という好意的なメッセージを、非言語コミュニケーションで相手に伝えるようにすることです。興味深そうに目をキラキラさせながら話を聞いていけば、どんな人でも大いに語ってくれるものですからね。
あまり難しく考えずに、「私はあなたの話に興味があります。詳しく聞かせてください」と自分に2、3回言い聞かせてみましょう。そうしてから、鏡を見てみてください。何もしない状態と比べると、少し穏やかな感じがしませんか?役者さんのように、細かい表情を意識して作る必要はありません。そうすると、かえってぎこちない感じになってしまいます。ちょっと自分に言い聞かせるだけで、雰囲気はかなり変わってきます。「無口な人・気難しい人」に会って話を聞く時は、ぜひ自分にこう言い聞かせてから臨むようにしてください。
これは私も「おじさん」だからあえて言いますが、中高年の男性は何も意識せずにムスッとしていると、あまり話しやすい雰囲気にはならないものです。すなわち、「普通にしていたらダメ」なのです。ぜひ、そのことを自覚してください。ベテランこそ、「私はあなたの話に興味があります。詳しく聞かせてください」と自分に言い聞かせる必要があります。
とっさに話しかけられた時の雰囲気にも気をつける
商談などであれば、あらかじめ自分に言い聞かせて雰囲気を作ることができます。しかし、とっさに話しかけられた時は、無防備な表情が出やすいものです。特に、マネジメントに携わる人はいつも忙しいので、部下たちから話しかけられた時に「あぁ?なんだ?」という少し不機嫌そうな表情をしがちです。
ところが、この表情は部下たちの脳裏に刻み付けられてしまいます。これを繰り返すと、「あの人は話しかけにくい」というレッテルが貼られてしまいます。こうなると、報連相が滞るようになります。上の立場になればなるほど、剣術ではないですが、どこから打ち込まれても受け止められるようになることが理想です。
こういうと、「それじゃあ、部下の話にいつでも付き合えっていうわけですか?」と誤解する人がいますが、そんな必要はありません。一旦受け止めてあげて、話が長くなりそうだったら「ごめん、今は忙しいから、昼過ぎにもう一度話を聞かせてくれないか?」などと言って遮るのは構いません。こうすれば部下も「話しかけにくい」とは思わないものです。大切なのは、最初に声をかけられた時に「受け止めてあげること」です。
息遣いも雰囲気に大きく影響する
意外に思われるかもしれませんが、「息遣い」も雰囲気に大きな影響を与えています。ハアハアと浅くせわしない呼吸をしている人とは落ち着いて会話できませんよね。人は、息を吸うと交感神経が働いて緊張が高まり、息を吐くと副交感神経が働いてリラックスします。気難しい人を前にすると、どうしても息を詰めてしまって緊張しがちになるので、なるべく息をゆったり吐くようにして、リラックスすることを心がけましょう。
クレームの時なども、どうしても息を詰めてしまいがちですので、なるべくゆったりした呼吸をするようにしましょう。また、ゆったりとした呼吸をしていると落ち着いた印象をもたれます。若い方などで、頼りがいのある感じを演出したいと思ったら、ゆったりした呼吸を意識してみてください。
共通点が見つかると親しみを感じる
雰囲気以外にも、相手の防衛本能に配慮する具体的な方法があります。それは、相手と自分との共通点を見つけることです。たとえば、「同じ学校を卒業している」とか、「出身地が同じ」とか。それから、ゴルフやサッカー、釣りなど「同じ趣味をもっている」など。もし見つからなかったら、「同世代である」ということでも構いません。
そして、共通点が見つかったら、それにまつわる話をしてみましょう。学校、出身地、趣味、そして同世代だけに通じる話題などを取り上げてみます。そこで通じ合うことができると、相手は少しずつ親しみを感じてくれるようになります。
こうしたことを、意識的にやることが大切です。筆者は昨年から中国でビジネスを展開するようになりましたが、まず取り組んだのは同じ大学の出身者の人たちを探して交流を深めることでした。同窓だというだけでなく、異国の地でビジネスに取り組んでいるという共通点もあることから、短期間でとても親しくなることができました。中国でビジネスをする上で注意すべき点を教わったり、顧客を紹介してもらったりなど、そこから得られたものは計り知れません。目先のメリットだけでなく、仲間がいるという心強さが得られたのは、本当に有難いことだと感謝しています。
取引先の人と親しくなりたければ、自分と相手との共通点を探しましょう。まったく共通点がない人は少ないものです。なかなか見つからなかったら、「共通点」を広めにとって「共通項」にしてみましょう。「同世代である」以外にも、サッカーと野球の違いはあるけど「同じスポーツ好き」とか。「難しい年ごろの子供がいる」というのも、共通項になり得ます。それらを見つけて話題に取り上げていくことで、親しみを感じてくれるようになります。
「おしゃべりになる話題」を探してみる
防衛本能に配慮してブレーキを解除したら、こんどは話したい欲求に火をつけてアクセルを踏み込みます。その際に大切なのは、「相手に対して、興味・関心・問題意識をもつ」ということです。どんなに無口な人でも、気難しい人でも、ついつい熱く語ってしまうような「おしゃべりになる話題」があるものです。これを探していきましょう。
アイスブレークの時は、天候などの当たり障りのない話をしがちです。通常であれば、それでも構いませんが、「無口な人・気難しい人」を相手にする場合には、そこにひと工夫加えましょう。
たとえば、デスクに家族の写真が飾ってあれば、お子さんの話をすると顔がほころぶかもしれません。いい色に焼けていたら、ゴルフやアウトドアスポーツの話をすると、のってくるかもしれません。私の経験では、気難しい経営者の方が実はラーメンに目がなかったことを知り、それを話題に振ったところ急に饒舌になって驚いたことがありました。
常日頃から相手に興味・関心・問題意識をもって観察し、どの話題を取り上げるべきか調べておくようにしましょう。ブログ、ツイッター、フェイスブック、インタビュー記事などは、そのための情報の宝庫です。名前を検索すると、何かしらの情報が得られるかもしれません。商談などに出向く際には、そうした準備を怠らないようにしましょう。
「不」に注目する
多くの人がおしゃべりになる話題のひとつに「不」があります。「不平、不満、不安、不足、不便、不都合、不愉快、不具合」などです。これらは、一度話し始めると、とめどなく出てきてしまうものです。
「不」を聞き出すコツは、くすぐったいくらいにオーバーに褒めてあげることです。人は無意識のうちにバランスをとろうとする傾向があります。そのため、ある面を持ち上げられると、謙遜して違う面をわざわざ落とそうとします。
たとえば、「素晴らしいオフィスですね。キレイだし立地もいいし、言うことありませんね」などと持ち上げてみると、「いやあ、構えは立派だけど、中身が伴わなくてねえ・・・」などと言いながら「不」を語り始めるものです。
ちなみに、見込み客が競合他社と取引をしていたら、その競合他社を思い切り持ち上げてみるのもよい方法です。「ああ、A社さんとお付き合いがあるんですか。サービスが洗練されていて、対応も素晴らしいそうですね」などと言ってみましょう。そうすると、「う~ん、実際にはそれほどでもないんだよね」などと言いながら、「不」が出てくることがあります。そうした「不」を聞き出して、それらを解消するような提案をすれば、受注につながる可能性が出てきます。
相手の苦労や努力を認めてあげる
もうひとつ、相手をおしゃべりにする方法があります。人には、「自分の苦労や努力を認めてもらいたい」という非常に強い欲求があります。特に、経営者やプロジェクトリーダーなどトップの立場の人は、「自分の大変さを、もっとわかってもらいたい」という欲求があります。そのため、自分を理解してくれそうな人が目の前に現れると、欲求が抑えきれなくなって、ついついおしゃべりになる傾向があります。このコツがわかると、一般に「偉い人・すごい人」だと思われている人物へのアプローチがとてもラクになります。
そのためにも、きちんと相手に興味・関心・問題意識をもって観察し、苦労したり努力したりしているところを見つける必要があります。また、話題の振り方にも気をつける必要がありあます。若い人が、ベテランの人に対して「大変さがわかりますよ」などと言ってしまうと、生意気に思われる危険があります。「私などには想像もできないようなプレッシャーだと思いますが・・・」などと表現してみるとよいでしょう。
私は、「おしゃべりになる話題」のことを「呼び水」と呼んでいます。呼び水とは、ポンプで水をくむ際に、隙間が空いているとくみ出せないので、そこに入れる水のことです。無口な人・気難しい人には、「呼び水」が効果的です。今回のコラムで挙げた以外にも、呼び水になる話題はたくさんあります。ぜひ、これからは「この人の呼び水は何かな?」という意識をもって探してみてくださいね。
今回も、最後までお付き合いいただいて有難う御座いました。研修をしている時に、二番目に多い質問が、「おしゃべり過ぎて、話があちこちに散らばってしまう人にはどう対処したらよいか?」です。こういう人には、傾聴するだけでなく制御することが必要です。次回は、相手のおしゃべりを制御していくために必要なノウハウをご紹介します。