column19 言いたいことだけ話し散らかす人に対処する方法

 研修をしている時に、二番目に多い質問が「おしゃべり過ぎて、話があちこちに散らばってしまう人にはどう対処したらよいか?」です。こういう人には、傾聴するだけでなく制御することが必要です。今回は、相手のおしゃべりを制御していくために必要なノウハウをご紹介します。

 

しゃべり過ぎる人には要注意

 一般に「無口な人・気難しい人」よりも「おしゃべりな人」を相手にするほうが、気持ちがラクなものです。相手がペラペラとしゃべってくれるので、「間がもつ」わけですね。しかし、おしゃべりな人の話はあちこちに散らばってしまって、結局のところ何も生み出さないことがよくあります。

 

 こうした時間のロスは、友人とおしゃべりを楽しむなら構いませんが、ビジネスにおける対話では少々考えものです。打ち合わせや会議の時などに延々としゃべり続けてしまう人は、厳しい言い方をすると「時間泥棒」でさえあります。

 

 また、「効果があるのかな?」と常々疑問に思うのが「お説教」です。一方通行の話が延々と続いていって、結果として何も生み出さない。すべてのお説教が悪いとは言いませんが、幅広い年齢層の人たちから「上司のクドクドしたお説教を何とかできないか」と相談されますので、プラスよりもマイナスの作用のほうが大きいのではないでしょうか。

 

 作家のマーガレット・ヘファーナン氏は、TEDWomen2015においてMITの研究事例を取り上げ、生産性が高いチームのメンバーには3つの特徴があると述べています。それは、「高いレベルの社会的感受性がある」「お互い公平に時間を使う」「より多くの女性メンバーがいる」ということです。会議や打ち合わせの時に一人でペラペラしゃべる人がいると、「お互い公平に時間を使う」ことが難しくなります。ぜひ、しゃべり過ぎる人は「自分は時間泥棒をしているかもしれない」と自覚してください。また、周囲の人は、「おしゃべりな人を制御することの必要性」を認識してほしいと思います。

 

大切なのは、黙って聞かないこと

  では、どうすればよいのでしょうか。大切なのは、黙って聞かないことです。これは、反論しなさいということではありません。会話の時、反応を示さずにじっと聞いている人がいますね。あれをやめるべきなのです。

 

 column16でお話しした、傾聴で大切なことの一つに「反応を示す」があります。おしゃべりな人を前にすると、相手の話に圧倒されてしまって、押し黙ってしまいがちです。そうすると、相手は余計に好き勝手にしゃべり散らかすことになります。また、お説教などの場合、聞き手の反応がないと「わかっていない」と思ってしまって、さらに話し続けようとしてしまいます。

 

 人間の記憶には「轍」のようなものがあり、いつも話していることは記憶が強化され、録音を再生するようにスムーズに話すことができます。おしゃべりな人には、この轍がたくさんあります。押し黙って聞いてしまうと、相手は轍をなぞりやすくなります。話すほうは気持ちいいですが、聞くほうは同じような話を何回も聞かされる羽目になってしまいます。

 

 ですから、なるべく轍を通らせないようにする。そのためには、相手を放置しないことです。本来は、お互い公平に話をする状態がよいのですが、おしゃべりな人が相手だとなかなか難しいものです。そこで、うなずいたり、相槌を打ったり、表情を変えたりして、なるべく反応を示すようにします。そうするだけで、相手は好き勝手に話すことができなくなります。

 

指揮者のように話し手をコントロールする

 実は、話し手は聞き手の反応に引きずられています。聞き手が興味深そうに聞いてくれると、どんどん話そうとするし、ちょっと退屈そうにすると話し続けるのを控えるようになります。サポーティブリスニングの練習では、自在に反応を示すことで「指揮者のように話し手をコントロールできるようになる」ことを目指します。受動的に「話を聞かされる」のではなく、能動的・主導的に「話を聞いていく」という姿勢が大切です。

 

 バラエティ番組や情報番組でMCを担っている人たちは、これがとても上手です。芸人さんやコメンテーターの人たちは、どうしても目立ちたいので、話が長くなりがちです。これをそのままにしておくと収拾がつきません。そこで、MCの人たちは彼らが発言している時に放置せず、必ず反応を示してコントロールしています。

 

 私のお勧めは「たけしのTVタックル」に出ている阿川佐和子さんを観察することです。残念ながら、テレビは話している人を中心に写すので、阿川さんが反応しているところはそれほど多く画面に出ないのですが、とても参考になるので注意して見てみてください。

 

 この番組は、ある話題について対立する二派を両サイドに配置するため、途中から意見が紛糾します。阿川さんは、議論がかみ合っている時は「ふむふむ」という感じで興味深そうに聞いていますが、双方がヒートアップしてわけがわからなくなってくると、ため息をついたりして露骨に面白くなさそうな顔をします(笑)。そうすると、うるさ型の論客の皆さんが話すのをやめてしまいます。見事なコントロールです。

 

 現実的には、阿川さんのような力量を身に着けるには、それなりの修練が必要です。それに、上司がお説教をしている時に露骨に面白くなさそうな顔はできませんよね(笑)。でも、「聞き手が反応を示すことによって、話し手をコントロールすることができるのだ」ということは、ぜひご認識いただきたいと思います。

 

 ちなみに、みのもんたさんがMCを担当すると、出演者にバランスよくコメントさせて無駄な尺を作らないため、編集の手間がほとんどかからないそうです。これは、そのままコスト削減につながります。MCの力量とは、人気者で視聴率をとれるかどうかだけでなく、スムーズな進行によって編集作業に負荷をかけないという側面もあるわけです。

 

目的や主旨を明確にする

  会議や打合せなど、あらかじめ準備ができる場合は、なるべく話をする目的や主旨を明確にしましょう。そうすれば、途中で話が散らばった際に本筋に収束させることができます。日本の会議は、目的や主旨があいまいなまま開催されることが多く、結果として「声の大きい人の独演会」に終わるケースがよく見受けられます。目的や主旨を明確しないと、「時間泥棒」が活動しやすくなるわけです。

 

 取材などを行う場合は、「話を聞きたい理由」と「聞きたいことの主旨」をつなぎ合わせて文脈を共有するとよいでしょう。たとえば、お客様に新商品をご案内する資料を作るために、商品開発者に取材する場面を考えてみます。この時、何となく取材をしてしまうと、開発者は思いが強いですから自分目線で好き勝手に話をしてしまいがちです。

 

 そこで、「お客様に新商品をご案内する資料を作りたいので、協力してもらえませんか?商品の機能だけでなく、開発の狙いや背景、舞台裏のエピソードなど、お客様に興味をもってもらえそうなお話を、たくさんお聞きしたいんです」と事前に伝えておきましょう。

 

 こうして文脈を共有しておくと、トンチンカンな回答が少なくなりますし、ゴールが共有できるので、協力的に話をしてくれるようになります。一般に、開発者の人は技術的な細かい話をしがちですが、文脈を伝えておけば「それはお客様に必要ないのではないか」と言って発言を遮ることができます。

 

時系列を辿ると話が散らばりにくい

 もう一つ、話が散らばったのを収束させるのによい方法があります。それは「時系列を辿る」ということです。話が散らばっても、「ええっと、さっきはここまで話したよね」と言って、本筋に戻すことができます。警察の取り調べで、容疑者から事件のあらましを聞き出す際にもこの方法が使われています。容疑者が、のらりくらりと話をはぐらかそうとするたびに、時系列を辿るようにして話を元に戻すわけです。

 

 おしゃべりな人と対話する場合も、同じように時系列を辿りながら話を進めていくのが得策です。たとえば、プロジェクトの打合せをする場合、タイムスケジュールを辿るようにして話を進めていけば、話が脇道に逸れた時に戻しやすくなります。

 

 ビジネスは、物事が動いているわけですから、ほぼ例外なく時系列を辿ることができます。ある採用支援コンサルティングの会社では、顧客との商談時に使うために、オリジナルのタイムスケジュール表を作成しています。これを使うと、話が脇道に逸れることなく、短時間で有意義な打合せができるそうです。

 

 

「合わせ技」を使う

  これまでお話ししてきた、「反応を示す」と「目的や主旨を明確にする」「文脈を共有する」「時系列を辿る」を合わせて使うと、より効果的です。いわゆる「合わせ技」ですね。目上の人と会っている時に、相手の話が本筋からずれていっても、先ほどの阿川佐和子さんのような露骨な表情はしにくいものです。でも、「手もとの資料をチラッと見る」くらいはできるのではないでしょうか。こうすると、話している側も「あっ、本来の主旨から話がずれてきたな」と気付くものです。そのためにも、打合せの時にはシンプルなレジュメを一枚用意しておくとよいでしょう。

 

 少し難しいですが、相手の息継ぎのタイミングが読めるようになると、「手もとの資料をチラッと見る」などの効果が高まります。人は、バーッと話し続けていても、必ず息継ぎをするタイミングがあります。肺の中に息がたっぷり入っている状態だと話に勢いがあるので制御するのが難しい。逆に、もうすぐ息を吸おうかという時は勢いが弱まってコントロールしやすくなります。

 

 相撲や剣道などでは、相手の呼吸をはかります。「息を吐いたタイミングで虚が生まれる」といわれ、どんな達人でもスキができます。ここを狙って技をかけたり打ち込んだりするわけです。同じように、会話の時に相手の呼吸が読めるようになると、話し手をコントロールしやすくなります。相撲や剣道などと同様に、「聞くこと」もしっかりとした技術を身に着けて上達することが必要です。

  

話の腰を折る

 常識的には、相手の話の腰を折るのは好ましいことではありません。しかし、現実的にはやむを得ない場面もあります。そこで、「相手を不快にさせずに話の腰を折るノウハウ」をいくつかご紹介しましょう。

 

 一つは、「相手への配慮を口にする」ことです。相手が延々と話し続けていたら、「ちょっとこの部屋、暑くないですか?」「(日差しが)まぶしくありませんか?」「(飲み物の)おかわりはいかがですか?」などと言って、話を遮ってしまいます。相手にとっては不愉快かもしれませんが、とはいえ配慮されての発言なので怒ることができません。

 

 もう一つは「自分を悪者にしてしまう」ことです。たとえば、お客様のところに行って、少し雑談をしたら思いのほか話が弾んだとしましょう。もう十分アイスブレークはできたし、時間もないので本題に入りたい。このような時には、「あ、すいません。お忙しいのに。いやあ、お話が面白くてついつい・・・」などと言って、話を聞き続けている自分を悪者にして謝ってしまいます。悪いのは、延々と話し続けているお客様のほうです。でも、こちらが謝ってしまうことで、角を立てることなく話を打ち切ることができます。

  

話の腰をやわらかく曲げる

  ただ、ここに挙げた二つのやり方は、少々強引ですよね。言ってみれば、「話の腰をポキッと折る」ような感じがします。そこで、「話の腰をやわらかく曲げる」のに便利な言葉を一つご紹介しましょう。それは「ちなみに」という言葉です。私もこのコラムで毎回のように使っていますが、話の流れを曲げるのに大変便利な言葉です。これを会話の時にも使うわけです。

 

 「ちなみに、こういう面についてはいかがですか?」などと言って、自分の聞きたい方向に話をもっていきます。聞くのが上手な人は、知らず知らずのうちに使っているのではないでしょうか。これは本当に便利な言葉なので、ぜひ使いこなせるようになってください。

 

 ノウハウは、学ぶだけではダメで、使いこなして習熟する必要があります。初めのうちは、「難しいなあ・面倒くさいなあ」と感じるかもしれませんが、慣れてしまえば一生にわたって使える技術になります。ぜひ、「聞くこと」に興味・関心・問題意識をもって、気長に取り組んでいってくださいね。

 

 今回も、最後までお付き合いいただいて有難う御座いました。次回は、「顧客との対話」について考えていきます。よく、「顧客のニーズを聞き出して対応しよう!」と言われますよね。しかし、実際にできている人は少数です。さらに、どうすればよいのか教えられる人は、本当に少ないと思います。そこで次回は、顧客の状況、要望、ニーズ、課題などを聞いていくために必要なノウハウをご説明します。