これからの時代の「新任管理職の対話術」⑬

有能な「ゼネラリスト」になるために(column39)

今回の連載では、 ①時代が変わっていることを認識し、いたずらに恐れないこと。 ②相手の良き理解者・相談相手になること。 について繰り返し書いてきました。最後に、有能な「ゼネラリスト」になるために大切なことをお話ししたいと思います。

 

スペシャリストは「専門家」。ではゼネラリストは?

 最近は、管理職になるよりも、専門職を希望する若い人が多いと聞きます。マネジメントって気苦労も多いし、なにかと大変ですからね。それから、「管理職などのゼネラリストは、つよみがハッキリせず、つぶしがきかない。専門性をもったスペシャリストのほうが転職するのに有利だ」という話もあるそうです。大変な上に、自分の市場価値が上がらないなら、管理職になりたくないのもわかる気がします。

 

一般に、ゼネラリストというと「知識や能力を、浅く広くもつ人」と考えられています。これは間違いではありませんが、本質をついていません。筆者は、ゼネラリストは「幅広い意見・知識・能力などを、まとめ上げる(=統合する)ことができる人」だと考えています。スペシャリストは「専門家」。ゼネラリストは「統合家」と呼ぶべきです。「総合」ではなく「統合」です。

 

先ほどの、「ゼネラリストは転職活動で苦戦する」という話。「専門性」はテストで測ることができるし、資格で示すこともできます。しかし残念ながら、「統合力」って測りにくいし、示しにくいんですよね。だから、ゼネラリストは苦戦するのだと思います

 

とはいえ、世の中の仕事は、それほど専門性が必要なものばかりではありません。むしろ、そこまで専門性はいらない。専門的な知識が必要なら、ちょっと勉強するか、専門家に聞けばいい。そうして得られた、幅広い意見・知識・能力などを、状況に合わせてまとめ上げる。現実的には、こうした「統合力」が求められる仕事のほうが多いのです。

 

統合について、もっと一般化して考えてみましょう。たとえば、リスクと利便性。例を挙げると、自動車は便利な乗り物ですが、利用すれば大気汚染や交通事故などのリスクが発生します。そこで、排ガス規制や交通法規を作る。それでも発生するリスクは容認することで、利便性を享受する。このようにリスクと利便性を統合することで、自動車の利用は成り立っています。

 

そう考えると、政治には高い統合力が求められます。少子化が進んで税収が伸びない中で、どのように収支のバランスをとるのか。それから、原発などのエネルギー問題や、近年とみに複雑さを増してきた周辺諸国との外交など。こうしたことは、統合的に考える必要があります。

 

しかし、column28「上司や先輩の言葉を素直に聞いてはいけない時代」でお話ししたように、日本はこれまで異常な急成長が長く続いたため、それほど統合的に考えることが必要とされませんでした。そのため、残念ながら、あまり高い統合力をもつ政治家が育っていません。

 

企業経営も同じで、新しいことをやろうとすれば当然リスクが存在します。可能性とリスク。これらを統合的に考えて実行に移すのが企業経営者の役割です。ところが、現在の日本人経営者の多くは「リスクがある」と聞いただけで尻込みします。統合力が欠如していることの表れです。

 

ゼネラリストとしての道を歩み始めた新任管理職の皆さんには、ぜひ「統合力を高めよう」という意識をもっていただきたいと思います。

 

統合力を高めるにはどうすればよいか

では、統合力を高めるにはどうすればよいのでしょうか。まず、統合力が高かったと思われる代表的な人物を二人挙げます。それは、徳川家康と大久保利通です。

 

戦国の世をまとめ上げた徳川家康や、維新の混乱を収束させた大久保利通は、統合力が高かったと考えられます。あまり知られていませんが、利通は家康を非常に尊敬していたそうです。自分が打倒した幕府の開祖を尊敬するなんて、ちょっとおかしな話ですよね。でも、新しい時代をまとめ上げるという点で、家康の足跡が参考になったのでしょう。

 

歴史のお好きな方は、ぜひ「統合力」という視点で家康と利通の伝記を読んでみてください。ただ念のため申し上げますが、私は二人を全面的に肯定しているわけではありません。両者ともに、けっこう失敗をしているし、そもそもあまり人気がありませんしね(苦笑)。これまでの世を「ぶっ壊した」織田信長や坂本龍馬のような華々しさがない。豊臣秀吉や西郷隆盛のような人間的魅力もない。武術や学問においてそれほど優秀だったわけでもなく、突出した能力が見当たらない。二人とも、驚くほど地味です。

 

この二人に共通しているのは、出身の区別なく幅広く人材を登用したこと。そして、部下や専門家たちの意見にじっくりと耳を傾ける姿勢があったことです。

 

家康も利通も、晩年は猛烈に忙しかったそうです。そうした中で、いろんな人の、いろんな意見を聞くのは、たいへんつらいことです。「オレは忙しいんだ。結論から言え!」と怒鳴りたくなるのをグッとこらえる。そのためには、自分のコンディションを常によい状態で維持しなくてはならない。二人とも、健康に人一倍気を配り、精神的にリラックスする時間を大切にしていたそうです。

 

たしかに、忙しい、方向性が見えない中で、話を聞くのはつらいことです。目をつぶって、耳をふさいで、「エイヤッ」とやってしまったほうがラク。これを「割り切る」と言います。

 

割り切り型のリーダーって、キッパリしていて、カッコイイですよね。小泉純一郎元首相は、その典型です。そのため、リーダーシップを「割り切ることだ」と考えている人も多いようです。でも、このタイプの人は「敵を見つけてやっつける」ことで人気を得ようとする傾向があります。こうしたやり方は、伸びている時代はいいですが、これからの混沌とした時代においては、むしろ危険だと思います。

 

「専門家になる」のではなく、「専門家から、話が聞けるようになる」

 統合力を高めるために、ぜひお勧めしたいことがあります。新任管理職の皆さんは、部下の話をじっくり聞くだけでなく、さまざまな分野の専門家の話を聞きに行くようにしてください。「専門家になる」のではなく、「専門家から、話が聞けるようになる」ということですね。

 

いわゆる、「一万時間の法則」というものがあります。その分野の専門家になるには、少なくとも一万時間は費やさなくてはならない。でも、専門家の話が聞けるようになるのに、そんな苦労はいりません。その分野の入門書を5冊手に入れて、ザッと読んでください。私はこれを「入門書5冊の法則」と呼んでいます(笑)。

 

入門書って、その分野を網羅的に理解するのに都合がいい。さらに、その分野の権威と呼ばれる人が監修していることが多く、簡単ではあっても、いい加減なことは書かれていません。ただ、ダイジェストするために偏りがあったりするので、5冊ほど読むことによってバランスをとるわけです。

 

読み終わったら、その分野の専門家の講演を聞きに行きましょう。そして、前のほうで熱心に話を聞き、できれば最後に勇気を出して質問をする。終わったら必ず名刺交換に行きましょう。講演をしてみるとわかりますが、前で熱心に聞いている人の顔はよく覚えているものです。そのため、名刺交換の時に、「今日はとても参考になりました。もっと詳しくお話を伺いたいので、またお会いしたいのですが」と伝えると、間違いなくOKがとれます。column34「依頼をスムーズに受け入れてもらうコツ」とcolumn37「『また会いたい』と思わせる心理メカニズム」でお話しした、「それらしい理由とセットにして依頼する」「言質をとる」です。

 

筆者は、このようにして、たくさんの専門家から話を聞いています。ビジネスで中国に進出する時にも、上記のようにして中国の専門家の方とのアポをとりました。このコラムも、数多くの専門家や知人の方々からお話を伺い、その内容を統合して書き上げたものです。

 

「割り切る」のではなく、「まとめ上げる」ことを意識すること。そして、若いうちから、幅広い分野の専門家の話を臆せずに聞けるようになること。これが、統合力を高めるポイントです。実際にこれを続けていると、社内外に良質な人脈が増えます。そのため、何かあった際に転職活動で困ることもありません。新任管理職の皆さん、ゼネラリストとしての道を、どうか勇気をもって進んでください。

 

最後に、新任管理職の皆さんへ、あらためてエールを送ります。

①時代が変わっていることを認識し、いたずらに恐れないこと。

②相手の良き理解者・相談相手になること。

③ゼネラリストとして、統合力を高めること。

これらのことをお勧めして、筆を置きたいと思います。これまでのご愛読、まことに有難うございました。